765話 忖度?杓子定規?DE大惨事


 SIDE:協会本部(藤岡課長)


「はっ?検察が受け取り拒否?どういう事ですか!?」

 監査官数名が男の台詞にギョッとした顔をした。

「───はい。いえ、今回は…はい。確かに別件ですが、これは間違いなく……えっ?緊急で許諾を得ていた?記録にも残って…はい、分かりました」

 通話を切り、大きくため息を吐く。

「撤収だ」

「は?しかし…」

「出した書類は無効だそうだ。あの無茶な総動員勤務体制は探査業務法3条による許諾によって行ったらしい」

「職員達がそれを認めていると!?あり得ないですよ!個別で聞き取りをすべきです!」

 1人がそう主張するが、男は首を横に振る。

「一度出直そう。最低限の目標は達成している」

「しかし!」



 ───なんて騒いでいるが、いやマジでなんなんだ?

 なんか様子がおかしい。そもそも中央本部に関わる事やここ最近のトラブルに関する監査と聞いていたのに2~3名では無く9名も来ていて更には起訴だなんだと言っている。

 じゃああの襲撃時や非常事態宣言下で民間人だと行って動かなくてもよかったというのか?

 百鬼夜行の際もそうだが。

 優子の方を見る。

 表情が抜け落ちた顔をしていた。

「ねえ、私抗議した方が良いのかしら?それともこの国見捨てても良いのかしら」

「…もう良いかも知れないな。人が死ぬ気で百鬼夜行から東京を守ったり国民を守っても攻撃してくるとかな…岩崎もずっとこんな気持ちだったんだろ?よく耐えられるよな…」

「そうは言うけど貴女も大概バッシング受けているわよね?記者会見であんなに人を見捨てないように神様方を宥めていたのにこれでしょ?」

「お前もだぞ?これまで上からの命令で世界各国を回らされて、救助活動だなんだと休み無く働かされ、首都防衛にここずっと24時間ここに缶詰にされた結果がこの犯罪者扱いだろ?」

 互いの顔を見る。

「「…辞めようか、この仕事」」

 監査官達がギョッとした顔でこっちを見ているが、知るか。

 私達はパソコンに触れないようにと言われているので取りだしたA4用紙に直筆で退職届の基本文章を認める。

「ここの文言、この国の我々に対する対応の酷さに愛想が尽きたで良いかしら?」

「まあ、上層部から大臣に行くだろうしもっとセンセーショナルな文章が良いんじゃないか?裏切られたとか」

「あ、それ良いわね。事実だし平和を搾取し権利だけを主張する方々のために私達職員は働いていたのかと思うと全ての気力が削がれました…とか」

「全ての気力が削がれたは言い換えした方が良いんじゃないか?」

「あっ、今警備で回っている騎士団を全部解除しようかしら」

「良いんじゃないか?これも労働基準違反なんだろうし」

 私達2人でそう言い合いながら退職届…いや辞表を書き直しているとドカドカドカと荒い足音が聞こえてきた。

「馬鹿共はここか!?」

 ドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは磯部大臣と官僚といった出で立ちの3人組だった。

「ああ、長谷川部長と藤岡課長。監査の名を騙るガサ入れをしていると報告があったんで所管庁の上役らを連れて来たんだが…」

 部屋の空気が一気にピリついたものになった。

「…なあ、そこに監査官がいるのは分かる。何故捜査員がいるんだ?」

「私は担当部署職員4名による監査を法に則って行うよう指示をしたが、そこに警察関係者等が介入するとは聞いていないが?」

「君達はそうやって重要書類を漁っているのだ。当然捜査差押許可状はあるんだよな?我々捜査機関の問題となる重大な案件だ。まさかそれを蔑ろにしているなんて事は…許されないぞ?」

 その言動から恐らく1人は経済産業省の上役の人間で、もう一人は警察組織か検察の上役なのだろう。

 官僚2人にそう言われ、書類やパソコンに触れていた全員の動きが止まった。

 私が覚えている限り監査として協会本部に入った人数は9名。

 つまり、正規の監査官4名以外は───


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