762話 過去の繋がりと今の繋がり
兄さんとのんびりしていてふと気になった。
「廣瀬さんに家族は?」
「ああ、調べたがなかなか悲惨だった」
「と、言うと?」
「あの家族自体が周囲から疎まれていた。家族全体が自身のことに精一杯で精神的な余裕は一切なかったようだ。町の中で村八分に近い状態でしかも逃げられないように飼い殺しだ」
「えっ?」
今の世界でそれってあり得るの?
兄さんは一冊の黒いファイルを取り出した。
「これが廣瀬家の記録だ」
僕はそれを受け取り、数ページ読んで悪意と悲惨な情報の羅列に顔を顰める。
「生かさず殺さずと言うよりも廣瀬さん以外を自死させようとさせているじゃない…町全体が」
そりゃあ余裕なくなるよ。町全体でほぼ村八分。それを受け入れるしかない廣瀬一家の、状態…夜逃げもできない、生きながら死んでいるような家族。
心が死んていてただ子どもを生かすことが精一杯な状態。
ただ、最後の力で廣瀬さん達を送り出し…
「現在、廣瀬家の生存者は兄の真委斗だけ。自宅は既に焼失していた」
「焼失…」
「まあ兄は職を2度変え、離れた土地で何とかやっている」
「お兄さんの方は、廣瀬さんの状態を…」
ページをめくる。
「知らない?えっ?知らないってなに?」
「暗黒会社は彼女の死を肉親に連絡せず処理。アパートも内々で処理をして解約済み。その後会社は無くなり…という状態だ」
「便りが無いのは元気な証拠…ではないよ、これは」
「まあ、本籍地で調べれば分かるはずだが、廣瀬一家自体が特殊な生い立ちのせいもあって兄の方も余程のことがない限りは調べようとはしないだろうな」
あれ?見覚えのあるグループ企業に…饗馬商事って…
兄さんの方を見る。
「ああ。チョッキンされた昔の知り合いの実家だ」
いや言い方ァ!
「生前のことなんで~全く気にしていませんよ~それに、今とても幸せですし!」
真紀奈お姉さんはそう言って微笑む。
「ありがとうっ!本当にありがとうっ!コイツに人の心を思い出させてくれて!」
ラヴィ姉さん、その言い方とても悪意を感じます…しかもコイツて…
「あら~…うっかりシステムを「私が悪うございました」早いですよ~」
なんというコントを…
「それに間違ってますよ~…私は人の心を思い出したのでは無くあの時知ったんですよ~?」
「そっちの方が、重いっ!」
ラヴィ姉さん…変な自爆をさせないで…
頭を抱えるラヴィ姉さんに苦笑する。
「あっ、二人とも居た!」
「佑那?二人って?」
「なんか各国から緊急通信が入っているらしいんだけど!」
佑那のその台詞にラヴィ姉さんがギギギ、と顔を真紀奈お姉さんへと向ける。
「ヒロセサン?」
「いえ?緊急通信は本当に入っていないんですよ~?」
「…もしかして、緊急コード入れずに緊急って言っているのでは?」
「だとしてもオペレーターは3~7号が現在あちらにいるので緊急であれば連絡が来るはずですよ~?それに1件も緊急通信がないと言うのも異常です~」
「…確かに」
「なので一切問題無いはずなのです~」
「佑那、それ誰情報?そして何処で聞いたの?」
全員が佑那を見る。
「マンションを出てすぐに血相変えた人が私に「そう伝えてください」って」
「で、その人は?」
「私が急いでここに来たとき、一緒にマンションに入って来て…あれ?消えた?」
佑那が顔をしかめる。
「警備が強化された矢先の犯行…間が悪すぎるね」
「あっ、じゃあ私祓戸様の所行ってくるわ。佑那ちゃんはそこで待機で」
ラヴィ姉さんがそう言って立ち上がった。
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