737話 なのです!

 SIDE:日本


 敗北宣言。

 そう捉えられても良い内容の会見だった。

 始めは中央協会の件について。

 新総長の暴走行為とそのとんでもなく傍若無人な内容と裏で国がとある協定を結んでいたことなどが堂々と副総理の口から告げられた。

 ただ、協会自体にそこまでの権限がないことを説明。更には拠出金を止め、脱退して他の協力各国と独自のネットワーク構築を模索すると告げるとメディアは沸いた。

 ただ、次の内容に事前にある程度情報を得ていた記者達は事の真相を聞き血の気が引いた。

 無論、そのデモ現場へ取材に行った報道陣はいた。

 しかしその記者達は未だ社には戻っておらず、あの現場も騒然となっており未だ詳細は分かっていなかった。


 少し前に起きたデモ現場に異世界の神がふらりと現れ起こしたことを。

 巫女を国のトップに据えよというデモが開催されていた。

 そこに女児姿の神がそれらの主張に対し疑義を呈しこれまでの本人や周りの発言を引き合いに出して論破。敵意を向けられたために姿を現した。

 結果、その神威によって参加者およそ千名あまりが行動不能となり現在周辺を封鎖して医療班等が救助活動に当たっているとの事だった。

 神が姿を現す。

 これまで聞いていたことと違うと報道陣が困惑する中、副総理はそのまま説明を続ける。


「その後伺った所、一部の神は神域の外も出歩けるがそうそうで歩くことはないとの事です。

 ただ、神々には法含め人の決まり事は人同士の決まり事であって彼等彼女らには一切関係ないことです。

 今回も緊急通報を受けた磯部大臣が直接現場に駆けつけ事情を説明し詫びることで何とか今回はと引いて戴けましたが舐めた態度を取れば一帯を灰燼に帰すとまで言われたとのことです。

 皆様方はくれぐれも馬鹿な行為を行わぬようご注意下さい」

 そう言って言葉を閉じた副総理に質問が飛ぶ。

「それは、国としてどうお考えでしょうか」

「憲法もその他各法も人に対して効力と意味を有するものです。一応日本の神々は昔の約定を人間側が破ったにもかかわらず一応は遵守して戴いているようですが…

 外国の神々や異世界の神々に対しては…良識に期待するとしか言えませんな」

「そんな…今からでも法律を制「あのね、分かっていると思うけど喧嘩を先に散々売ったのはこちらなんだよ、わかる?」…」

 記者の質問を遮るように副総理は発言をする。

 余所行きのような喋り方ではなく普段の口調で。

「過去何度か俺以外からもこの手の話を巫女様の記者会見やら配信やら磯部大臣の会見やらでやっていると思うが、現在国家存亡どころか人類存亡の危機なんだよ。

 そんな中俺らは馬鹿なことに人同士の利害で争っている。

 国は国として国体や国民を守り法を守るために人の力を駆使してあれやこれややってきたがもう限界だ。

 直近6代か?7代の総理は呪殺だよ。呪殺。こんな状況で自ら死に赴く椅子に座りたがる奴が何処にいる?貧乏くじを引かされて裏では泣きながら総理の椅子に座り数ヶ月から一年で死ぬ。

 まあ、磯部総理は解呪されたが、最近再び呪われたって言ってたから降りるまでの間何度か解呪をしなければならないらしいが。

 今血反吐吐きながら与野党あわせて僅か数十人の議員が昼夜問わず国政を回しているんだよ。

 残りは国会が終われば地方にすぐ帰る。殆どまともな活動はしてねぇのはお前さん方も分かってるよなぁ?

 国会開催期間はダンジョンができる前と比べて半分だ。なのに給料はほぼ同じだ。ただやることは極端に減っている。

 官僚もそうだ。二極化が進み働く奴等は必死に働き、半数近くは役に立っていない。おう、反論は受け付けるぜ?ここ半年の勤務状況調査は済んでいるんだからな?

 ───まあ、そう言う訳でこの国はギリギリ何とかガワだけがまともに見えるハリボテの国だが国民を守り人権を尊重し法の定めたとおりにやらなければならないんだ。今俺らに神々に対してああだこうだ言う余裕もなければ力もない。

 更にはさっきも言ったように約定を先に破り神を否定したのは俺らの先祖だ。

 神の姿を見ているにもかかわらず舐めた態度を取ったのも俺ら人間だ。

 先に詫びるのは俺らだろうが。ただごめんなさいで済むわけもねぇよな?

 長い間助けてもらっておきながらこんな事してきたんだからな。

 それに、それらの受け皿となっていた巫女様にギャアギャア騒いでぶっ倒してしまったんだ。国としてこれまでの行いに対する補償は当たり前だが行う積もりだ。

 まあ、今後国としては現状出来る事として探索業務法第4条1項と3項に基づいて対処する。神々や巫女に対しての一方的な非難や攻撃は超常生命体対応と同じと思って欲しい。私見も混ざったが、俺からは以上だ」

 副総理はそう言って質問者がいないか見回したがしんと静まりかえった状態が暫く続いたため、質問無しとしその場を離れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る