735話 命にふさわしいか
SIDE:東京某所
「我々は正しき指導者の下で新たな営みを始めようではないか!」
拡声器を使いそう叫ぶ青年。
それに集い「そうだそうだ」と叫ぶ聴衆。
その数は1,000人規模だった。
「この国を、巫女に明け渡せ!」
「責任逃れしかしない官僚は拘束しろ!」
「無能な議員達は退陣しろ!」
気炎を上げる者達の側に幼女が一人近付いてきた。
「なんで?」
「?お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
首をかしげている幼女に青年が声を掛ける。
「巫女様って神様方の饗応と人並みの生活したくて神国の大統領にならなかったのに、どうして皆はこの国の偉い人にしようとしているの?」
幼女の台詞に青年は固まる。
「えっと、それはだね………やっぱり自分の故郷を治めてこそだと思うんだよ」
「?それは人並みの生活なの?」
「………」
青年は幼女に論破されるとは思っていなかったのか視線で仲間に助けを求める。
「でも皆で巫女様に代表者になって下さいってお願いすれば巫女様はきっとやってくれると思うんだ」
別の青年が幼女にそう話しかける。
「?前に公開放送で巫女様を隠者のような生活が基本の社畜って磯部大臣さんがいってたし、民意で巫女様に権力が集中したら駄目だってことで民意で外交特権剥奪されたんでしょ?」
「ぁ……」
青年はそれ以上言えず僅かに後退る。
「子どもの言うことだぞ無視しろ」
誰かがそう怒鳴った。と、
「じゃあ…大人の姿で問おうかの?」
幼女は人々の目の前で姿を変える。
「お初にお目に掛かる。妾はザルカンという世界を統治する神ハヴァスターイ。現在巫女のいる神域で一時厄介になっておる者じゃ」
突然の強力な神威に千人あまりの人間がその場に色々な物を垂れ流しながらへたり込んだ。
「で?巫女は神々の饗応含め様々な事と仕事を同時に熟し更にはうぬらのように時折湧き出る者達に手を患わせた結果迷惑を被り倒れたんじゃが?それを何と言った?」
神威が更に増す。
引きつけのような「ひっ!?」という悲鳴が方々から上がるが誰も止められる者はいない。
「のぅ?助けてもらっておきながら要望だけで感謝も巫女のことも慮ることをせぬ愚か者達よ。おっと、勝手に助けたなんて思った日にはうっかりここに居る全員を消し飛ばしてしまうやも知れんぞ?」
もう既にその場にいた者達は生きた心地がせず、あらゆるモノを垂れ流してただただ怯えるだけとなっていた。
「巫女が言えば従う…なんて思っておらぬか?それこそ神に対しての侮辱じゃ」
「こんな所にいたんスね!捜したッスよ!」
突如声がし、ハヴァスターイの背後に女性が姿を現した。
そして一台の車が凄いスピードで路肩に横付けされた。
「っ!?」
降りてきた男性…磯部大臣はその神威に膝を折りかけたがハヴァスターイの手前まで来て膝を突いた。
「この度はこの者達が、申し訳ありませんでした。この国には表現の自由があるためこんな愚かしい内容であっても警察に申請を出している以上認めないわけにはいかなかったのです!」
「確かに愚かしいのぅ…国の法に則れば確かに許される行為かも知れぬが、それが神々の怒りに触れれば法の庇護だろうが何だろうが妾達には関係ない。一切合切を灰燼に帰すぞ?
今回はこの程度で許すが…あまり妾達を舐めるなよ?世界創造を行った主神クラスはこうやって世界に降り立つことが可能じゃ疲れるし面倒なので普段しないだけじゃ」
それだけ言うと後ろに控えていた女性の方を向く。
「タイム。アメ横に行きたいんじゃが…」
「…もしやそれだけのために出歩いたと?」
「巫女がおったら菓子を用意してくれるが、今大変な事になっているじゃろ?だから自分で手に入れるために出たんじゃ」
「お金、持ってねぇッスよね?」
「ないぞ」
「……場所は?」
「知らぬ」
「………危ねぇぇぇっ!地味に世界破滅フラグじゃねぇッスか!」
「妾、邪神じゃし?何よりも天之御中主からは外出許可もらったぞ?」
「一番駄目な呑兵衛からもらってる!?」
「……お二方、アメ横への送迎はこちらでやらせて戴くというのは…」
「おっ?お主は妾の軽い神威に屈しておらぬから良かろう」
「宜しく頼むッス。あ、お金は自分が持っているので問題無いッス」
磯部は立ち上がり、二人を車へと案内する。そして3名が居なくなって数分、誰も何も言えず、その場から動けずにいた。
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