730話 メルト(ダウン前)


 セットを解体して全員解散させる。

「これは、正直に言いますと神及び準神特攻です」

 白城さんが真剣な顔でそう分析した。

「神々のダウン率100%だったことと、私やメリアのダウンがその証です。

 更にメリアがああなったので私は精神障壁や過剰回復対策を行っていましたが…モエニハカテナカッタヨ」

 いや最後の台詞ゥ!小声の早口で言っても聞こえたから!


 約束通りリムネーと2人だけの親子の語らいをしたあと、何となく気になって畑へ向かう。

「みゃーこ…が、大きくなってる?」

 上半身だけを土の外に出しているみゃーこが少し大きくなっている気がした。

「う!」

 みゃーこが手を挙げる。

「みゃーこ元気そうで良かった……う?」

「う!」

 両手を挙げて笑う。

「成長したんだね。良かったよ」

「う!!」

 みゃーこは金桃を取り出して僕に渡そうとする。

「それは大事なものでしょ?大切に保管していて欲しいな」

 そう言うとみゃーこは残念そうに金桃をしまった。

 他の植物も問題無さそうだ。

 マイヤが管理しているから問題は無いと思うけど。

 のんびり箱庭の中を歩く。

 閉じた世界。箱庭。まあ…新たな生命誕生を許していないから新世界とは言えないかな。

 別荘地的な感じだし。

 僕としてはほぼここに住んでいるんだけど。

 涼やかな風の中ボーッと草原を歩く。

「~~♪~~~♪」

 何となく鼻歌を歌う。

『やっぱりパパいた!』

 マイヤが飛んできた。

『パパ後ろ!』

「んぇ?後ろ?」

 振り返る。

 僕の歩いた場所に花の道が出来ていた。

「なんで!?」

『パパが鼻歌歌ってご機嫌だから!って』

 いや接待が過剰すぎません!?

「ご機嫌というか、ボーッとしていただけだよ?」

『パパがこの世界のことを考えながら歩いてくれるのが嬉しいって!』

 ええええええ?

「いやそんな事言われても…時折考えているよ?」

『でもそんなに歩き回らないでしょ?』

「そだね」

 むしろ屋敷内と屋敷から100歩以内だね。

 考えたら、兄さんとの修行で走った以外で、僕殆ど歩いていないや。

「僕運動不足!?」

『パパ?』

「…毎日2~30分のお散歩しなきゃ」

 通勤はちょっと危険だからできるだけ箱庭内で…もしくは、ジム?

「そういえば、僕マンションのジム行ったことなかったような?」

 ………うん。余裕できたら、行ってみよう。


 SIDE:協会本部


「支援要請が今日だけで30件きています」

 長谷川の台詞に藤岡は顔をしかめる。

「あちらも結界に守られているだろうが。こちらは警察が半ば崩壊しているからダンジョン非常事態特措法使って仮取り締まりしているとか訳の分からない状態で一杯一杯だぞ」

「ええ。私の部隊も出ているのでそれは分かりますが…ヨーロッパ各所で終末思想信者と神を神と信じない方々のせいで石板が消滅しているらしいのです」

 まさかの情報に藤岡の表情が強張る。

「何処情報だ?」

「政府情報です。そして先程中央本部から支援要請と共にその情報があったので間違いないでしょう」

 テーブルをトントンと指先で叩き、息を吐く長谷川に藤岡は強張っていた表情を苦々しい表情へと変える。

「───日本も、他人事ではないな」

「現在部隊のシフトを切り替えて2人1組で石板警護に割り振っていますが…出来て関東甲信越地域内ですね」

「あの石板は結界、食糧供給補助、ダンジョン探査のアイテムショップを兼ねているだけに…壊す馬鹿は探索者達が許さんだろうが」

「日本は食糧供給補助の恩恵はそこまで感じられませんからね」

「良い事なんだが…中条グループが頑張った結果だが…ううむ」

「で、元に戻って本題です。中央は巫女を回して欲しいと寝言いってきたのでお断りして切りました。

 現在岩崎君の状態を無視した発言は許せるものではなかったので。今頃会長の下に連絡が行っているかと思います」

「中央協会は馬鹿なのか!?」

「前総長は昨日亡くなり、現在新総長が良い所を見せようと色々やっているんです」

 深いため息と共に長谷川がテーブルに突っ伏す。

「あのクズ優男、総長になったからって私に愛人になれとか馬鹿なことホットラインで言ってきましたよ!録音されているって分かってないでしょうねぇ!」

「…よし、退職するか」

「会長がどう出るかによってそれは決めましょう。ただ、岩崎君には連絡をしておかないと」

「今メッセージを送った。そんな事よりもほら、差し入れだ」

「あら、おにぎり?」

「ああ。岩崎の子達が握ったそうだ」

「…まずは拝んでから戴くわ」

「食べたら驚くぞ」

 ニヤリと笑う藤岡に「あ、これドーピング剤レベルの危険物だ」と悟った長谷川はおにぎりを手に祈りを捧げた。


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