692話 CONFESSION


 僅かな間無言が続く。

「仲間や大切な人を傷付ける覚悟は…ありません」

 課長が告白するようにポツリと言葉を発した。

「それが例え自身が死ぬことになっても?」

「私が死ぬ分には良いです」

「仲間が仲間を殺す事態になっても?貴女は無力化できたはずなのに見逃し、殺され、ダンジョンや妖魔の尖兵となった方が良いと?」

「……」

 課長は何も言えず目を瞑り深く息を吐いた。


「アレ?なんか無茶苦茶暗いんだけど」

 佑那がやってきた。

「佑那、下は?」

「全員ダウンしているから来たんだけど…どしたの?」

 そう言いながら飴を取りだして食べる。

「覚悟について話し合っていたんだよ」

「兄さんが?」

「課長と神兵さんが」

「覚悟…どんな覚悟?」

 佑那が聞いて来たので神兵さんが言っていた問いかけをそのまま伝える。

「えっ?その時後悔したまま死んで後悔の念が残った状態で操られている様を見せられる…なんて事なるよね?」

「…」

「だったら今出せるフルの力を把握してできる限り常時引き出せるようにしていないと。例えば兄さんが動けない状態になって巽さんが操られているって状態になったとき、どうするの?」

「!?…巽を、斬る」

「いや斬っちゃ駄目でしょ。そこで無力化でしょ!ああもう!一緒に修行したときもずっと武器戦多かったけどさぁ!」

 頭をガシガシ掻きながら佑那が呻く。

「ああもう!ミツルギ様に手伝ってもらって心身叩き直してもらうわ!」

 あっ、佑那が切れた。

「君はどうなんだ!?」

「友紀兄さんが操られる可能性と結羽人兄さんが操られる可能性。ある?」

「………あー」

「例えさっきの条件下だとして、問答無用で無力化して搬送するわね。基本殺さずだけど、無理なら最低条件としてでも相手を始末するわ」

 佑那の目がスッと冷たく細められる。

「これが覚悟の差か」

「覚悟は幾つも用意していれば良いだけだし。さあ、行きますよー」

 ガシッと課長の肩を掴み、イイ笑顔で佑那が誘う。

 そして神兵さんもイイ笑顔で頷き…連行していった。

「…まあ、心の状況次第で取り憑かれにくくなるし、良いかなぁ」

 僕はお茶を飲んで息を吐いた。


「さーて…僕も何か頑張ろうかなぁ…」

 そう呟いて気付く。

 楽器一杯あるし、弾き語り系やってみようかなぁ…

 スマートフォンを取りだして検索をする。

「おー…うん。皆暇だなぁ!」

 凄まじい登録数となっているんですけどねぇ!

 万単位になっている。

 その中からピアノが良いなぁ…

「あ、これが良いかな」

 そんなに難しく無さそうで歌詞も……歌詞架空言語じゃないですかヤダー!

 でも態々訳がついているぅ…

 小鳥が枝に止まっているのを眺め、平穏を祈る修道女の歌。

 まあ、練習してみようか。

 ピアノを取りだし、何度か演奏をして───どうしてマイヤとメリアさんがすぐにやってくるんですかねぇ?

「絶対に聞き逃せないな!」

『貴重なパパの練習光景だもん!』

 あー…うん。

 更に神兵さん達までやってきたし…

「まあ、拙いけど、それでも良いなら」

 僕は小さき息を吐き、練習を開始する事にした。


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