691話 躊躇いノ森
「まさかの完敗ですか」
「流派に囚われすぎなのよ。本来の戦い方をしなさい」
「はい!」
「…うん。飴玉作ってこようかな」
僕は木刀で高速打ち合いを始めた2人を放置して飴を作ることにした。
うーん…果汁とかは神域の物とここの物を作るかな?
神域のマンゴーとみかん、ブルーベリーで。
ここのはジャムを使うかなぁ…杏と、桑の実と…りんごで。
水飴を炊き続けて水分を飛ばし、べっこう飴直前で果汁投入する。
だいぶ濃いから多分大丈夫…かなぁ?
練り込むのは大変だけど、そこは空間操作で攪拌頑張る。
普通に切って丸めるか…ああ、金型作れるか!
~~巫女神調理中~~
うん。きちんと瓶に『一般用』と『箱庭耐性者用(佑那以上)』ってしっかりと記載してプライベートボックスへin。
さぁて、どうなっているのかなぁ…?
僕はお茶を作りそれもしまって外に出る。
2人の元へ行って見ると課長が完全にボコられていた。
「…切っ先に目を向けてしまうのは仕方ない、とは言い切れないのよねぇ」
「間合いが間合いだけに目が行ってしまうんですよ」
「私は小太刀の方が得意なんだけど、こうなってくると色々心配になってくるわ」
「…流石に木刀だとこれが限界です…」
「よし、次は刀でやろうか!」
「え゛っ!?」
うわぁ…戦闘者スイッチが入ったかぁ…
ニヤリと笑う神兵さん。
「私はこのままだ。なぁに、私の守りは余程のことがなければ突破できない」
「…行きます」
課長は刀を取りだして居合いの構えを取る。
「ふむ?…来い」
神兵さんがジリッと動く。
刹那、課長が刀を抜き放ったけど、ガッという音と共に課長の刀が横に弾き飛ばされた。
「一歩前に出て柄頭を叩けば木刀でも問題無い。ただ、居合いに対する絶対的な信頼はどうかと思う。しかし足りない」
───いや、それ無理だと思います!何よりも柄頭に木刀の切っ先を当てて相手の武器を弾くなんて芸当は!
ハッキリとそう言われ課長がしょぼんとした顔で神兵さんを見る。
「貴女は実戦なら100%の力が使えるのに通常の試合レベルだと途端に力が出せない…それが足りない理由ね」
相手を殺す気概と覚悟をした時点で十全の力を出せる。それは非常に拙い事だ。
それは武の理念としてどうなのだろうか。
戈を止めるという武。技能を十全に扱えないという状態。
それを以て未熟と言っているのかな?
そんな事を思いながら僕は2人の側へと向かう。
「お疲れ様です。飴とお茶どうぞ」
テーブルを取りだしお茶を置き、一般用の飴を取り出す。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
神兵さんが嬉しそうにお茶を飲み、課長は何か考えるような顔でお茶を飲む。
「難しく考えすぎよ。もし、貴女の大切な人が2人その場にいて一人は貴女より2つ下位の力を持っている。
でもその人が操られてしまい貴女は十全の力でなければその人を抑えることが出来ないし、絶対に殺してはならない。
かといって自分が死ねば確実にもう一人は殺される…さあ、どうする?」
「……現状では相手を殺してしまう…」
「いいえ、貴女はそれが出来ず殺されるでしょうね。ただ、相手が死体を悪用する輩だったら?貴女は死後大切な相手を失い、他の人々も貴女の体が殺して回る…」
課長が視線をお茶へと落とす。
「貴女に足りないものは覚悟。ある程度の覚悟はあるかも知れないけれど、更にもう一歩踏み出す覚悟が足りない」
神兵さんは容器から飴玉を一つ取りだし、頬張った。
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