688話 コロコロオドル


「…数日のトレーニングで、どうしてうっすらとでも筋肉つくのかなぁ」

「元々体を動かしていたからだと思うけど」

 佑那達が部屋に入ってきた。

「お疲れ。僕、これからもう一度職場に行くけど」

「私達は一旦休憩」

「友紀ちゃん…佑那ちゃん、スパルタが過ぎるんだけど…!」

「紅葉さんが選んだ道だから…ガンバ♪」

「…………がんばりゅぅぅぅ…」

 駄目だこの幼馴染み。膝を突いて僕を拝みだしたよ…


「二度目の出勤ですが…大丈夫?」

 会議室からちょこっと顔を出す。

「姫様。こちらはもう大丈夫です」

 巽さんがすぐに気付いてそう声を掛けてきた。

 どうやら怪我人は多数いたものの、全員無事回復したとのことだった。

「結界を突破されたのは協会管理のダンジョンで、かなりの戦力をつぎ込んだと考えられます」

「単体で下位悪魔クラスが数千体って考えたら…まあ、ダンジョン侵攻以上だからねぇ…うん」

「やはり、下級悪魔クラスだったのですか…」

「うん。ダンジョン前の結界崩しに数百、審議の石板の都市結界に千体ちょいかなぁ?そしてこことマンションと、千代田区にある審議の石板破壊に合計およそ千数百体?…これって、本当に本腰入れてきそうな予感がするなあ」

 ちょっと神様方や白城さん達と話し合わないといけない気がしてきたぞ?



「あれ?なんで香也がこの時間に居るの?」

 ブースに入ると香也がいた。

「いや、拙者は尋定と申す者でござる」

 そう言って香也はバッと顔を隠した。

「…尋定さん?」

「ええ、ええ!拙者生まれは福井の刀鍛冶の息子でござる!」

「そっかぁ…香也に用があったんだけどなぁ」

「拙者香也殿とは無二の親友でござる故、伝言承りますぞ?」

「あ、いや良いです。流石に重要なことなので…」

 そう断りを入れ、課長の方を見る。

 課長がお疲れモードだ…突っ込みすら入れない。

「課長?」

「…どうした?」

「少し、宜しいでしょうか」

「会議室で良いか?」

「はい」

 共に席を立ち、会議室へと向かう。

「課長、具合でも悪いのですか?」

「いや、そうではないが…」

 会議室の扉を開けると重装救命士2人がテーブルを片付けてマットを敷いてくれていた。

「…どういう事だ?」

「こういう事ですよ」

 課長の手を取り、投げる。

「っ!?」

 瞬時に空中で迎撃の動きを見せた課長だったけど、遅い。

 着地と同時に放たれた突きを往なして強制的に癒やす。

「っぐぅ!?」

 だらんとその場に崩れ落ち…と言うよりもへばる課長。

 全身に力が入らない状態だ。

「強制的にリラックスさせました。動けませんよね?」

「……」

 課長は黙って僕を見る。

 僕は課長を仰向けに整え、軽く馬乗りのような状態となる。

「!?」

 うん。やっぱりそうだ。

「じゃあ、ちょっと失礼しますね?」

 そっと課長に抱きつき、腕を両手で抱えるようにロックして───ゴロゴロと転がった。

「!?!?」

 突然の奇行に訳が分からないという顔の課長だけど、その顔が二重にブレた。

 その瞬間を待っていた。

『聖慈母の風格』を体表ギリギリから半径1メートルに範囲を広げる。

 ズレたそれは課長に再憑依する暇無く対邪自動迎撃により消し飛んだ。


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