681話 地獄と、神国


 おにぎりと卵焼き、そして緑茶をテーブルの上に並べる。

 おにぎりはシャケ、みそ、お塩の3種。

 卵焼きも塩、砂糖、だし巻きの3種。

 お茶だけ普通。

 でも、皆貪るように食べてくれた。

 …60個あったんだけどなぁ…まあ、喜んでもらえたから良いかな。


 SIDE:世界


「おいっ!弾薬は!」

 全弾打ち尽くした隊長が後ろに居た兵士に弾倉を催促する。

「もうありません!」

 兵士の悲鳴に隊長は舌打ちをする。

「クソがっ!奴等がダンジョンを抑えていたってのか!?」

「いや、隊長。俺、前からそう言っていたじゃないですか」

「ッッ、るせー!文句は国に言え!」

 怒声をあげながらもホルスターからデザートイーグルを抜いて即発砲する。

「ッソが!おい!スコップ持って───」

 銃撃音が止んでいる事に気付き慌てて周辺の状況を見る。

 そこに生きている人間は一人も居なかった。

「…ぇ、っ?」

 仲間を頭から咀嚼する大きな黒犬。

 首元に口を付けチューチューと中身を吸い出している怪鳥。

 仲間を引き千切る複数の小人達。

 十数名居た兵士達が一瞬で自分以外居なくなってしまった。

「は───は、」

 カタカタ震える手をなんとか抑えながら怪鳥の目に発砲する。

 ィンッ

 しかし眼球を破壊することすら出来ず弾かれ、すぐに隊長は黒犬目掛け発砲する。

 が、食べる速度は変わらず、弾丸が当たっても弾かれるでも無く黒い体に吸い込まれた。

「あああああああああああああ!!!」

 隊長は残弾を吐き尽くすように周辺のモンスター目掛けて発砲し続けながら後ろに下がる。

「づぅっ!?」

 右脹ら脛に激痛を感じ後ろ向きに倒れる。

 視線を右脹ら脛の方を見ると幾つもの骨の手が掴んでいた。

「くそっ!」

 振り払おうと上体を起こし、左足でそれらの手を蹴って退かそうとしたが、他の手が腰や左足を掴んできた。

「あ、ああ…あああっ!」

 身動きが取れなくなり、叫ぶことしか出来ない。

 そうすることで援軍がきてくれることを期待して。


 現実はそう都合良くは無く、悲鳴は十数秒後に途切れた。



 SIDE:神国イ・ブラセル


「24時間会談できますか…」

「22時間ですよ。あと13時間です」

 リムネーの現実的な返答にヴェールが机に突っ伏す。

「お願い、言わないで…」

「しかし、武力で脅してきた方もいましたね…」

「神々が即座に支援停止したけど、良かったのかしら」

 首をかしげるヴェールにリムネーは少し悲しげな顔をする。

「公開放送しながらだそうなので…それでもお父様にはお伝えしたくありませんね」

「まあ、そうねぇ…ここが出来てから容赦なくなったわね」

「そこは仕方ないかと。あんな下卑た目でこちらを見たり、脅せばなんとでもなると思っている方も一部居られるというのは残念です…」

 ガチャリと会議室の扉が開き、廣瀬が顔を出す。

「はいはーい次の会談が始まりますよー」

「あと3ぷーん」

「その3分で何を失うか考えてくださーい」

「はぁい…」

 ため息を吐き、突っ伏していた体を起こし、席を立つヴェールに苦笑しながらリムネーが手を貸す。

「ほんと、ありがとね」

「いえ、お父様の代理補助ですから」

「…本当に、良い娘よね…」

「お父様にとって自慢の娘の一人になれるよう頑張ります」

 嬉しそうに言うリムネーにヴェールが小さく微笑み、共に部屋を出ていった。


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