655話 ファンクラブと、国家規模の「お友達」


「ああっ!?巫女様のファンクラブ!?」

 遠野外務大臣が人を殺しそうなガンギマリの目で磯部大臣を睨む。

「ええ。そいつらの正体がまだ分からないので重要な所に入れるのは…」

「?何を言ってる?ただのファンクラブだ。うちの娘達も入っているぞ」

「は?」

「ついでに言えば娘の友人…元公安の人間だが,ソイツが見守る会の新宿支部長だ」

「いや、えっ?」

「あー…ちょっと待て。今娘に連絡する。変な勘違いでごたつかれたら溜まらん」

 遠野外務大臣はスマートフォンを取りだし、電話をかけ始めた。


「お初にお目に掛かります。私は遠野幸典の次女で遠野夏華と申します。まだ大学生ですのでお手柔らかに…」

 一時間ほどして一人の女性が入ってきた。

 無論洗脳されていないかなどの確認作業も一通り終わっている。

「磯部文臣だ。早速だが君達の組織形態を知りたい」

「組織形態、ですか?えっと、『姫巫女様見守り隊』や『岩崎兄弟を尊く見守り隊』等であればご説明可能ですが…組織?」

 困惑する夏華。

「いやなんだその名前…」

「あー…夏華。コイツはお前等ファンクラブの事を正体不明の武力組織だと思っているんだよ」

 ニヤニヤしながらそう言う遠野外務大臣に夏華はキョトンとした顔をするが、

「謎の、武力組織…防衛隊の皆様方の事でしょうか」

 何か思い当たったのかそう呟いた。

「防衛隊だぁ?」

「ええ。各サークルに2~3名程いる神聖職や回復職の『非武装防衛隊』の方々の事です」

「………」

「ほう?」

「その前に私達ファンクラブの成り立ち等をご説明したいと思います」

 そう言って軽く息を吸った。



「………まさかそんな長い歴史があったとは…魂消たなぁ」

「確かにあの近所は人外魔境だが…えええ?」

「私は3年前からの新参者ですが…現在ファンクラブでも表立って姫巫女様を支える会派、裏から支える会派、何かあった時に全力で支える会派と3つほどあります。

 現在は協会本部の巽女史が音頭を取ってまとめていますが…彼女も国内の6~7割しか分からないかと思いますし、全世界の会員までは分かっていません」

 キッパリとそう答えられ、遠野外務大臣が恐る恐る訪ねる。

「…なあ夏華。1年前、俺がヨーロッパ3カ国外遊した時、美春が「絶対に身に着けて」と言われたカフスボタンがあったんだが…外遊先で数名から「良い物ですね、娘さんからですか?」と一発で当てられたんだが」

「あー…十中八九信者です」

「………そうでなければあんな交渉通らなかっただろうな…あの頃から俺らは巫女様に助けられていたのか…」

「正確には巫女様のお兄様と、ですよ」

 大臣2人はその台詞に目眩を感じていた。

「岩崎弟の世界規模の人脈は分かっていたつもりだったが…見積もりが甘かったか」

「俺ァ自信なくしちまうぜ…」

「岩崎案件以前から見てきた最古参の方々ですら「あの兄弟は単体で国家を動かす」って仰っていましたから。2年前の事です」

「…もう組織じゃねーか」

「組織形態は取っていませんので組織ではないですよ?同人サークルやファンクラブと様々な形態を取っていますし。

 更に言えばグループ掲示板などで連絡を密にしているので電子通信が途絶しても符術師職の方や法術職の方々がすぐに近隣の拠点持ちチームやサークル、クラブに連絡を送ったりと最近はもしもの時の対応もバッチリです」

「なあ、磯部よぉ…俺らより此奴らの方が進んでるぜ?」

「技術進歩におじさん達がついて行けないのは世の常ですって…」

 この時磯部大臣は過去に結羽人が「公権より古い公権からの流れ」の組織と符術によって通信をしているのを見ていた事を失念していた。

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