654話 政治対処と、戦線復帰準備


 SIDE:日本


「はぁ!?」

 浅野副総理が少しキレ気味な声を上げる。

 秘書官からもたらされた情報は頭の痛い…いや、話であった。

「あちらさんは真夜中だろう?そんな中お隣さんは大統領をたたき起こしてそんな訳の分からねぇ事を言ったと?阿呆なのか?」

「まあ、こちらにも力を貸せと言ってくるかも知れないと…」

「貸すか馬鹿野郎!おい各党に通達出しとけ!頷いたら俺らは終わりだぞ!」

 秘書官は大慌てで各党へ連絡を行った。


「ここへの襲撃が一番多かったと」

「ああ。しかし…恐ろしいな。医者や看護師も洗脳されているなんて」

 磯部総理は報告書を見て顔をしかめ、磯部大臣も同じように苦い顔をする。

 武器や呪具を看破する人間を周辺に配備したところ、数日間で2桁の襲撃を受けていたのだ。

「人材消失と人間不信…誰がそうなのか分からないという恐怖は…恐ろしいな」

「ただなぁ…洗脳の見抜き方と対処法があるなんていうのもなぁ…」

 微妙な顔をする磯部大臣。

「なんだ。手柄じゃないか」

「岩崎に…巫女様の兄にダメ元で問い合わせをしたんだよ。そしたら簡単に2通りの対処法を示したんだよ」

「………」

 結羽人の提示した見抜き方と対処法。


 1つめ、教職系スキルの上位である教導者による『クラス教導』で複数人数をグループ化する。

 その場合、グループ内生徒の状態が分かるという。

 そしてその上でスキル『再教育』を行えば軽度の睡眠と洗脳状態は解けるらしい。

 クーリングタイムは30分。3~5回繰り返せば大抵の洗脳状態は解けると。

 しかもとある大学の講師が発見したとの事でその人物名も教えてくれた。


 2つめ、聖職者系スキルの通常上位職にあるスキル外スキル『真偽の眼』で確認をすれば状態が洗脳や憑依、乗っ取り等の場合は『偽』となるという。

 それに対して上位職系の儀式スキル『沈静浄化』『護摩行』『大祓の儀』等を行えば洗脳や憑依等は解除され、憑きもの系であれば儀式範囲外まで悪霊や悪魔は弾かれるとの事だった。


 ───実は3つめの方法も教えて貰ったものの、常人に実行不可能だったため報告は上げなかった。


 3つめ、一定以上の武術を納めている人間が対象に対し『見抜き』を行い悪心や憑依、洗脳を見抜いた上で自身の覇気や殺気を面で当てるか、点で射貫いた場合相手の術式や洗脳、憑依が解けたり始末する事が可能である…という本当に一部の者しか出来そうにない代物だった。


「どうやら良く分からない組織も動き出して洗脳者の対処を行っているようだからこれ以上問題が広がる事はないだろ」

「いや、良く分からない組織ってなんだ?聞いてないんだが?」

「聞かない方が良いぞ?総理として」

「いやいや待ってくれ。反社とかだとマズイだろ」

「……巫女様のファンクラブ連中だよ」

「…………は?」

「だから、岩崎弟の非公認ファンクラブだよ!奴等都内数カ所で今朝から動き出して既に洗脳された奴等を戻しているんだよ!」

「うわぁ…」

 磯部総理の心から漏れ出た声に益々苦々しい顔をする磯部大臣。

「早く公務復帰しろよ?俺の部隊を周辺展開からこういった外敵対策に回したいんだからな?」

「…最終検査結果次第で夕方には退院できる。浅野副総理から今日中に退院しなければ鉢植えで頭をかち割ると言われている」

「もういっそかち割られちまえ…俺は公務に戻るぞ」

 磯部大臣そう言って病室を後にした。


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