629話 お菓子作りと、人神天秤問答


 ……まさか3時間ほどジャム作りに専念するとは思わなかったし、各種2リットルずつ作るとか。

 そしてパンケーキ作ったよ!

 佑那が台所に入ってきて「あ、駄目だ」って言ってまたどこかに行ったんだけどどうしたんだろうか…


 ゼリーやプリン系の冷やしものを作り、次にパリブレストやタルトなどの焼き物系を作っていく。

「こうなってくるとお菓子に使うブランデーやリキュール類も…とか考えるのは人間の欲深い所なのかな」

 そう呟き、苦笑する。

『パパ?』

「んっ?」

 マイヤが小瓶を僕に渡してきた。

『しきょー品って!』

 多分そんな事言ってくるのは玉兎だと思うんだけど、何の?と思いながらも受け取って蓋を開ける。と、

「?…薬草酒?にしては…甘い?」

 一滴だけ手の甲に垂らして舐めてみる。

「度数高い…幾つかの香りって、ミードネクター!?」

 ブルーベリーやシナモンなどの香りがふんわりと香るけど、アルコールの度数がそこそこ高いのが分かる。

「マイヤありがとう。これで杏のタルトとかドロップビスケット作ってみよっか」

 マイヤとリムネーがパァァッと笑顔を見せる。

 よし、とりあえず今作っている物を作り上げてよう。



「兄さん、神社の件聞いたんだけど」

 お菓子作りが一段落したところで佑那が声を掛けてきた。

「あー…うん。どうしたの?」

「兄さんと分からないような無記名の神社だったら良いの?」

「んー…そうじゃなくて、僕の神社はなくても良いと思うんだ」

 僕がそう言うと、

「駄目だよ」

 佑那が思いっきり真顔で否定してきた。

「駄目なの?」

「うん。中継基地と力の増幅器、そして兄さんのこの世界に対するアンカーにするためらしいよ」

「???」

 言ってる意味が良く分からないんだけど?特に最後。

「中継基地の意味は分かる?」

「始めの2つの意味は分かる。それが神社の意味合いだし」

 御神体は中継基地であり分霊を送り込むための通路である。そして社は舞台装置であり、地と人から力を得て力を発揮するよう作られている。

 ただ、最後の意味が分からない。

「最後の意味って?」

「そのまんま。兄さんの拠点は地球ではなくここ、箱庭世界になっているからこのままだと人として地球にいられなくなってしまうし、地球との繋がりも無くなってしまう可能性もゼロじゃ無いって」

「だからアンカーということかぁ…」

 これは…ちょっとした問題だなぁ…兄さんに相談した方がいい問題だと思うんだけど、うーん。

 紅茶にほんの少しだけさっきのミードネクターを垂らす。

 僕の存在バランスが神へと傾いた場合、人として根付いているアンカーが外れてしまうという事だろう。

 で、あれは。

「佑那、僕が人でなくなる時って、どういうときだろうね」

「え?うーん…人に絶望したときじゃないかなぁ」

 人に絶望したとき…

「むしろ兄さんが今現在の状況を見て人に絶望していない不思議」

 えっ?

「多分兄さん身近な人が酷い目にあったり殺されたりしたときに絶望すると思う」

 あー…可能性は無くはない。

 自分のせいで亡くなったと自分を責めて……………も、人に絶望はしないなぁ。

「考えたけど、多分それでも人に絶望はしないし人を見限らないと思う」

「───それって、既に神の思考になってない?」

「えっ?」

 マジで?


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