615話 内患と、何者でも無い者


 SIDE:日本


 鬼の殲班。

 それを聞いた途端上司の1人は鬼の殲班の異名を知っているのか顔色を悪くした。

 巽の視線がきつくなる。

 理由は簡単。

 この人物は後ろ暗いことがあるのだろう。

 天下りの悪い面がでている。

 席を立とうとするその男を留めること2~30分。

 ドアのノックと共に2人の女性が入ってきた。

「失礼します。統合情報部の佐々木です」

「失礼します。特別災害対策共同部局の与古田です」

 部屋に居た全員がそれぞれ軽く挨拶を行うと、上司の男の挙動が微かに変わった。

 自己紹介をしたとき、佐々木が即座に反応したのだ。

「立花、哲世さん…ではないですよね?」

 佐々木の台詞に上司の男、立花は座った状態から佐々木ではなく与古田の方へ襲いかかってきた。

 しかしその襲いかかられた与古田は右手を突き出し、胸ぐらを掴むとそのまま立花を後ろにぶん投げた。

「ぶぇっ!?」

 壁に激突した立花が悲鳴を上げた。が、すぐに起き上がる。

「巽」

「適合しているのは「何者でも無い者ぬらりひょん」です」

「斬るのは拙いなであれ…」

 タァン

 与古田が放った弾丸は立花の眉間を穿った。

「「あーあ…」」

「えっ?そこでそんな反応!?」

 藤岡と巽の反応に佐々木が驚くが、

「儀礼弾頭であろうが死なんぞ。適合しているのであれば小鬼以上鬼以下と見た方が良い」

「眉間の弾痕にこれを流し込めば即座に起きますよ」

 巽はそう言いながら立ち上がり、取りだした小瓶の中身を倒れている立花の顔に垂らした。

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 ジュウジュウと音を立てて顔から煙を上げて立花が立ち上がる。

「本当に、内見の儀は凄いな…なりすましているモノも見抜くのか…」

 ソファーに座ったまま呟く藤岡に巽は立花から少し離れながらも頷く。

「課長のように常時はできませんが…本当に便利ですね…」

「対妖怪のスペシャリストが完全武装せずにきたのには少しガッカリだったが…」

「当たり前じゃないですか。我々は陰陽局の方々のような生粋の人間ではないのですから」

「巽は兎も角、私は生粋では無いんだがなぁ」

「課長は人間から一歩足を踏み出している化け物だと思いますよ?」

「褒め言葉だと───思っておこう」

 藤岡は刀を取りだし、席を立つと同時にその場を動かずに振り向きながらの抜刀をし、再び刀を納め座り直す。

 ボロボロと立花の姿が崩れ、そこにはまったく違う老人が横たわっていた。

「───4年前に国土交通省を退官した岩木和毅と一致しています!でも、彼は46歳で…老人…ええっ?」

 佐々木は顔の照合をしながら困惑の声を上げる。

「まあ、生きながら生気を吸われていたんだろうな」

「適合者に割とよくあることです」

「お二人の方が余程妖怪と渡り合っているように思えますが?」

「課長は百鬼夜行をほぼ壊滅させましたよねぇ…」

「お前も烏天狗を特殊弾頭で撃ち抜いて援護していただろうが」

「「………」」

 何も言えなくなる防衛省2人組。

「しかし…天下りの最悪な部分が出たようだな…誰かからの天の声でごり押しか…調査行うはずが調査をされていないと」

「更には彼が聖者職関連の上位責任者、でしたか?」

「…はい。セキュリティ部門の課長でした」

 常識離れの一連の出来事に放心状態となっていた職員だったが、我に返り答える。

「………失礼ですが、本来の立花のご年齢と入社歴は?」

「58と伺っております。2年目…です」

「58で天下ってきて前職とそこまで関係していなさそうな部署の課長職ですか?」

「えっ?」

 何を問われたのか分からないと言った顔をした職員。

「通常であればそういった職ではなく外部交渉や閑職、相談役職ですよね?」

 佐々木に改めて問われ、今気付いたように小さく呻く。

「………そう、ですね…何故…あれ?誰が…」

「これは早急に空港の機能を一度止めて浄化をするか結界を張り直した方が良いかもしれないな」

「磯部大臣より30でも50でも出すから使えと言伝を預かっています」

 佐々木の言葉に藤岡は苦笑しプライベートボックスから小さな水晶球を取りだす。

「では早速使うぞ」

 水晶球を藤岡が軽く握りしめるとそれが白銀に輝き、藤岡の手を離れると床から1,4メートルの高さで静止した。


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