614話 特別価格と、ダンジョン殲滅部隊


 SIDE:日本


「30億、ですか」

 やってきた先程爆発四散した職員の上司2人に買取の件で話をすると少し険しい表情をした。

「今回の件に関しては上の方に現状と既に悪魔憑きが入り込んでいた旨を上へは報告しております」

「そんな!困りますよ!」

「困るも何も重大インシデントです。今回の件を隠蔽し大規模な事故が起きた場合、責任を問われるのはそちらだけではありませんので」

 空港が海外物資輸送唯一の手段となり、国は即座に株の半分を買い上げた。

 ただ、同時に新たな問題も生み出した。

「君達ねぇ…そんな金額をはいそうですかと出せる訳ないだろうが。どんなものかも、本当に有効なのかも分からない代物だ」

 そう。2人の上司のうち、もう一人が新たな問題を体現するものだった。

 天下りである。

 元々無いわけでは無かったが、それがかなり強化された形になってしまったのだ。

 目の前の男は元官僚でソレもそこそこ高い地位にいた人間だった。

「ではこの交渉は不要と。我々はこれに関しては提示だけですので今後この交渉は承れません。では我々はあのヒトガタの殲滅のみに切り替えます」

「誰も不要とは言っていないだろう。本当に有効なのかも分からないものに30億もの大金を出せるわけが無いと言っただけだぞ?一般論だよ」

 ふてぶてしくそう言う男を藤岡はこう続ける。

「交渉は一度で構わないと磯部大臣から申し使っておりますので」

「は?」

「空港は国交省と防衛省の所管となっていたはずですが?」

 そう言われ上司2人は慌て出す。

 防衛面を含めあらゆる面で重要となった空港は現在国交省と防衛省の共同所管となっている。責任の分散であり、こうすることによって何かあった時の対応に違いが出るのだ。

「我々協会は警察からの協力要請と共に特別災害対策共同部局の通達に則ってこちらに来ています。空港においてダンジョン由来もしくは妖魔の類が出るような重大インシデントが確認された場合、速やかに報告するように、と」

 聖者職等が聖光や結界等を使えない状態をチェックせず放置していた事実や妖魔が紛れ込んでいた。これは明らかな致命傷となる。

 しかし飛行機の離着陸を止めていないという現状。

 それはヒトガタが駐車場側にいたためであり、通報時にはそれが何なのか分からなかったためである。

 ただ、現在は違う。

 ヒトガタはテロリストの使役する妖怪の可能性が高く、使役するテロリストが施設内にいることを示しているのだ。

 そしてトドメが悪魔憑き。

 言い訳のしようも無く重大インシデント及び特別災害テロ対策法案件であった。

「既に電話にて直接磯部大臣には報告済みです。もし断ったのであれば防衛省の方で臨時予算を付けで買い上げた後に防衛省から買い取る形となるかも知れません」

「そんな傲慢が許されると思っているのかね!?」

「我々は商売をしに来たのでは無いので。それにその品物は巫女様の私物。世界各国で現在使用されている結界球という特殊な品物です。貴方はそれを本当に有効かも分からない代物と切り捨てたのですよ」

「それを言われていないのだから分かるわけ無いだろう!」

 吠える上司に巽が冷静に言う。

「おや、協会本部に巫女様がいるという事はご存じだったようですが?」

「そうなのか?」

「はい。私が職員に悪魔憑きがいたと話をしたらお二方は「巫女様が祓ったのか」と聞いてこられましたので」

「……ふぅん?悪魔憑きとなっていたことを知っていた可能性も…考えられると。まあ、その仕事はこれから来るダンジョン殲滅部隊が調べると思いますが」

「「ひっ!?」」

 鬼の殲班。管理外ダンジョンをひたすら駆逐してきた殲滅部隊が現在千代田区を守っている。

 その一部が空港へと来る…それがどれだけ恐ろしいことなのか身を以て知ることになる。


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