611話 猿山フェスティバルと、呪詛返し


 ラヴィ姉さんに感想とお礼を言い、片付けをした後…一気におにぎりを作る。

 6種類各32個の大きなおにぎりを。

 ───うん。こちらをヨダレ垂らさんばかりの勢いで見るの止めてくれません?

 あげませんよ?明日の朝ごはんと確保分ですからね?

 あとは寝るまで兄さんのレポートを読んでおこう…


 おはようございます。

 兄さんのレポートは寝る前に読んじゃ駄目なヤツだ。眠い。

 朝ご飯はおにぎりの一部ですよ。

 箱庭メンバーには6種各2個。神様方には6種各8個を置いてきた。

 出した横から奪い合っていたけど!

 気持ちは鯉の餌やり状態…いや、猿山の餌やりかなぁ…酷い例えだ。

 そんな感じで出した横から手が伸びて取られていく始末だった。

 渡し終えてフロアに出ると課長と巽さんが待ち構えていた。

 ただ、その表情は硬い。

「おはようございます…課長、巽さん。どうかしましたか?」

「おはよう岩崎…テレビは見たか?」

「?いいえ、何かありましたか?」

「通信も出来ない状態でしたのでもしやと思いましたが…」

 ?

 何かあったのだろうか。

「現在、都内でゲリラ戦闘が起きている。内戦状態だ」

「えっ!?」

「通信が遮断されているんだが…」

「そんなにテロ部隊は多いんですか?」

「いや。恐らくは十数人程度だとは思うが…問題なのはヒトガタの何かを数百使役していることだ」

「ダンジョン関連ですか?」

「…それも分からん」

「ええー?」

「姫。そのヒトガタの強さが問題なのです」

 巽さんが疲れた顔で課長からの台詞を引き継ぐ。

「通常の武器は一切効きません。そして術にも耐性があります」

 それ妖怪じゃないの?

「呪具の九十九神という線は?」

「有り得ますが…使役できるとは思えません」

「燃えないの?」

「無理でした」

「術師系の火でも?」

「無理でした」

「香也の符術による火でも?」

「………それは試してはいませんが、彼に負担が掛かりすぎるのでは…」

「課長。香也に『大学の時の件僕がガチギレしていた』と伝えてもらっても?」

「いや、今通信等が…」

「メッセージもですか?」

「「えっ?…あっ…」」

 2人揃って今気付いたという顔をしましたよ?

 …うん。最近急に出来た通信手段だもんね…

「タイムさん」

「はいよ協会へのゲートオープンッス」

 タイムさんがケートを開く。

「アレはどちらに?」

「多分本部にいると思う」

「…じゃあ、僕が直接話した方が良いですね。行きましょうか」

 僕らは協会へと転移した。



 会議室には深夜勤組がグッタリした感じで机に突っ伏していた。

「あ、じゃあ僕打刻してきますね」

 僕の声に3人ほど飛び起きた。

「巫女様!?」「友紀!?」「巫女チャン様!?」

「はいはいブロックブロック」

 側で待機していた重装救命士が即座に盾を構え三人を押しとどめる。

「打刻してきまーす」

 IDカードをフリフリと振りながら会議室を出る───前に立ち止まる。

「あ、香也。大学の学祭の件、3ペナでイエローカードな?」

「Noぉぉぉぉぉぉっっ!?アレは!アレは騙すとかでは…あったかも知れないけど周りが!」

「黙れ実行犯」

「おうっふ…」

「罰として彼女と一緒にヒトガタを焼いて回って?」

 僕は重装救命士の方をポンと叩く。

「………えっ?」

「呪詛返しの一つであるでしょ?焼却法が」

「ちょ、なんで知って…結羽人さんかっ!」

 盛大に失意体前屈をする香也にザマァと返し、今度こそ会議室を出た。


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