568話 継承と、ヤンデレ


「兄さん…なんか一杯増えてたけど、接続保護が98%完了って」

「そうか。完全にインストールが終わってから始めようか」

 兄さんはアッサリとそう言う。

「よし、今のうちにマイヤ達にこれから行う手順を教えておこう」

 兄さんは何処までもマイペースでした。


「兄さん、完了したみたいだよ」

「よし、始めるか。一応説明しておくが、開始後、俺の身に何があっても何もしないように。そしてもし箱が起動しても気にするな」

 それだけ言うと畳間の中央に座り、大量のお札を周辺にばら撒いた。

「───ソースコード、展開」

 お札が一斉に立ち上がり三重五段の円筒状に回り出す。

 下からゆっくりと白銀色の鎖?…文字の鎖が出てきた。

「まさか…世界を読み解いたのか?いやそん………これは」

 目を見開いて白銀の鎖を見つめるユルフテラ様。

 そしてミツルギ姉様も息を呑んでその光景を見ている。

 直後、

 ツゥ────

 兄さんの目から血が流れ出した。

「!?」

 焦った僕は兄さんを回復させようと動き掛けて無理に自身を戒める。

 何もしないようにと言われていたんだ。

 白銀色の鎖が兄さんの眼前までゆっくりと持ち上がる。

「世界の、防衛機能が動き出すぞ」

 ミツルギ姉様がそう呟く。

 と、白銀の鎖が大きく動き出した。

 その鎖は兄さんを縛ろうと動き出し、お札に阻まれる。

 パンッパンッと弾け飛ぶお札。

 数がドンドン減っていく中、兄さんの唇が微かに動いた。

強制解除アド・エクタ

「あ……」

 何かが僕の中で途切れた。

『『!?』』

 そして事前に話があったようにマイヤとリムネーに処理の負担が行き…

「…………」

 兄さん?

 兄さんの生命反応が、感じられなくなった。



『やはりこの状態の方が手っ取り早いか』

「いやいやいやいや!平然と幽体離脱…幽体ですらないぃぃ!?」

 霊体とかそんなものじゃ無い。端から少しずつ揮発している感じだし!

『魂の状態だ。で、現在俺がこの世界を乗っ取った状態だな』

「そこはせめて管理権限掌握って言おうよ!」

 兄さんもうちょっと焦ろう!?もしくは急ごう!?

『処理全権はあの二人に任せ、器の負担は俺のペットたちが並列処理している』

「無茶苦茶だ…」

 呆然とするユルフテラ様。

「ありえない…並列処理?例えそれを行っても並の…あの白獅子達は中級神クラスのポテンシャルがあるというのか!?」

『そりゃあ、元々は神や精霊の元だ。ポテンシャルはあるだろ』

 そう言いつつも兄さんはお札を破り続けている白銀の鎖に手を翳す。

『【権限を我が弟岩崎友紀へ継承する】』

 ピタリと白銀の鎖が動きを止め、僕の中で再び何かが繋がった。

 同時に今まで言われてもあまり理解出来なかった世界の運営方法や動かし方などが理解出来るようになった。

 ───成る程。今まではラヴィお姉さんと佑那の力がフィルターになっていたせいでここまで完全に使えなかったのか。

 でも、世界が僕のためにと頑張ってくれていたんだ…ありがとう。

「っ、ねえ?結羽人くん?」

 ユルフテラ様の声にハッと我に返り兄さんの方を見る。

 白銀の鎖は消え、お札は辺りに散らばっている。

 そして、兄さんの生命反応は感じられず、

 魂も、その姿を消していた。


「───えっ?にぃ、なんで?」


「最後の最後で仕掛けてくるとか酷すぎるぞまったく…元からダミーボディじゃなかったら魂が焼き切れてるっての…」

「「「!?」」」

 襖を開けて、兄さんが現れた。

 えっ?じゃあここに座っているのは…?

「この箱庭、ヤンデレが過ぎるぞ…友紀以外の主は絶対に認めないらしい。接続をカットする際に魂を焼き切ろうとしてきたぞ…」

 そう言いながら事切れている兄さんの体をしまう。

「……えっ?待って?にぃに待って?分かんない」

 混乱する僕に兄さんは首をかしげる。

「今しまった体は義体、俺の特殊クローンだ。あれで活動しておけば何かあった瞬間に本体へ転送されるように設計してあるんでな」

「兄さあああああああんんっっっ!」

 僕は思いきり兄さんに抱きついて泣いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る