550話 胎動と、鳴動


 SIDE:結羽人


 とりあえず全員の涙腺が正常化する前に佑那が戻ってきた。

「結羽人兄さんが泣かせた!?」

「病床に居た時の友紀の話を2つしただけだぞ?」

「あー…お隣の病気の女性に心配された時「お姉さんの病気も僕がもらえたら良いのに」って呟いたせいでそのお姉さんに泣きながら説教された件とか?」

 それは初耳なんだが?

「因みにお姉さん、何故か翌日から調子が良くなって再検査したら病巣が消えていたらしいよ?私に泣きながら謝っていたわ。弟さんに病気を渡してごめんなさいって…私が妹なんですけど?とは流石に空気読んで言わなかったけど」

 黙っていればご令嬢だからなぁ…コイツは。

 …まあ、涙引っ込むどころか「マジかコイツ」って顔で友紀を見ているからなぁ。


 夜半過ぎに着信が入った。

 磯部大臣からか…

「はい。岩崎です」

『良かった…緊急事態なんだ!』

「総理襲撃以上のか?」

『ああそうだ!全世界のダンジョンが次々と崩壊し、中からモンスターがあふれ出している!』

「まあ、タイミング的にはあるだろうと思っていたが、やっぱりそうなったか」

『至急救援を頼みたいんだが…』

「無理だ。友紀が瀕死なんだよ」

『……は?』

「友紀が瀕死なんだ。現在意識不明の状態だ。それに…俺に頼るな大馬鹿者が。手持ちの物をフルに使え。

 前に友紀から色々買い取っただろうが。十全に使えば防衛に使える物ばかりだったんだが、無駄に使ったのか?」

 向こう側で確認と怒鳴り声が聞こえる。

「だいぶ安く買い叩いたんだ。国家存亡の時、今使わずに何時使う?」

 そう言って通話を終える。

「ん~~なーに?こんな時間に」

 佑那が起きたようだ。

「ああ、世界中でダンジョン返しが起き始めているらしい。ダンジョンが自壊し、中に居た全モンスターが外へと出てくるダンジョンの自爆技だ」

「っ!?」

 血相を変えた佑那がそのままの格好で屋敷を飛び出した。



 SIDE:佑那


「神衛隊全兵集合!」

 洋館に駆け込み、そう声を張り上げる。

「隊長!何事ですか!」

 8人の兵がすぐに集まってきた。

「現在全世界でダンジョン返しという現象が起きているらしいの」

「ダンジョン返しですか?」

「ええ。ダンジョン自体の自壊と引き替えに中のモンスターが全て外に出る自爆攻撃らしいわ」

 全員がざわめく。

「そこでお願いがあるわ。ここに居る全員…2名1組で世界中に散って遊撃をして欲しいの」

「ただでさえ少ないのにですか?」

「ええ。貴女方が一騎当千なのは分かっているけど、長距離移動の上何連戦もさせるとなると最低でもトゥーマンセルで行ってもらうわ」

「ここを守る兵はどうするんですか?」

「今残りの2人を出すわ。それと笹を持っていって。エネルギー補給にはなるから」

 うん。言いたいことは分かるからそんな微妙な顔しないで欲しい。

「隊長は?」

「私はマンションの防衛に当たるわ」

「えっ?死ぬ気?」

「いや、一応マンション自体にはまだ神域結界張られているからね?」

「でもモンスターの群の前では少し…」

「分かった。兄さんの部隊に応援要請をして何名かお願いする」

 全員が頷き、準備に動き回る。

 私はすぐに2人の神兵を召喚し、隣の屋敷を守るよう指示を出す。

 さて、友紀兄さんのことは結羽人兄さんに任せて、私は私の出来る事をしないと…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る