551話 負債と、不在


 SIDE:磯部大臣


「…最悪一歩手前かっ!」

 甘えがあったのは事実だ。数年前に言われた忠告に対してこちらとしては出来ることをしてきたつもりではあった。

 いや、それをしてきたからこそアイツは苦言を言わなかったんだろう。

 しかし、組織の愚かさに足を引っ張られることになるとは!

 総理は回復してはいるものの、軽い失血状態で絶対安静。

 副総理はかなり無理して政治情勢の舵取りをしている。

 警察組織はメディアの洗い出しと自組織のチェックを始めた。

 そして自衛隊達は…一割が抜けてしまった。

「横領、横流し…制服組がこれだと下も腐る…リストとの照合はまだか!振り分ける時間が無いぞ!」

「無茶言っている自覚ありますか!?一部使用履歴すらないんですよ!?壊滅した部隊が持っていったと言われたらそれまでですって!」

「それでもしなきゃならんだろ!急いで振り分けを行わなければならないんだ!」

 だが、確かにリスト上はアイツが言うとおり充分過ぎる程の物資があるのも事実だった。

 秘書官がタブレットを胸に抱えて執務室へ飛び込んできた。

「確認取れました!現在崩壊したダンジョンは確認が取れただけでも12箇所、元中務省技官によると神々が結界を張っていないダンジョンが崩壊しているとのことです!」

 外国でも同じようなダンジョンはあったはずだが、それらのほとんどが壊れていると聞いたが…違いは何だ?

 ───いや、それを考えている暇はない。

「都内を巡回し、できる限りのモンスターを討伐してきてくれ。避難誘導班も必要か…クソッ!人手が足りない!相手さんはこれが狙いだった訳か!」

 机を叩き吼えるがそれで何かが好転するわけでもない。

 そして何より、あの子の状態を伝えるわけにはいかない。

 海外から副総理に対して巫女の支援要請が大量に届いているらしいが、神々はほぼ我々を見限っている。

「何か、何か方法はないか…何かあるはずだ!」

 懊悩する大臣を尻目に職員は慌ただしく動き回っていた。



 SIDE:神域


「やっぱり動き出したかぁ…」

「もう少し時間を掛けると思っていたけど、何を焦っているのかな?」

「絶妙なタイミングである事は間違いないですね」

 ユグドラシル、祓戸、ミツルギの三柱が配信をしていないスタジオで話し合う。

「しかし、これもこちらの手の内だし」

「ただ…試算では1億くらいは消えちゃうんですよね」

 祓戸は視線を落とし、息を吐く。

「それと、モンスターが跋扈する新たな世界が始まるが…それは仕方ありません。わけですし、このままであれば別の滅びが確定していたわけですから」

「ゆーちゃんには申し訳ないけど…タイミングを見て結界点を全起動させ、この世界のダンジョンをこちらが掌握する」

「それが人のためになるから…仕方ない…」

「……ゆーくん、絶望しないかなあ…ミツルギ姉様大嫌いって言われたら、立ち直れない…」

「「………」」

 ミツルギの台詞に二柱の神は視線を落とす。

「───でも、アレを神にするわけにはいかない。ここで敗北すれば我々は呑み込まれる前にこの世界を滅ぼさなければならない」

「箱船計画だっけ?アレは流石に無理だけど、楔計画は順調だし、最悪そこから箱船計画へ…」

 友紀の部屋のドアが勢いよく開き、中から佑那と医療拠点士官、護衛士官、重装救命官らが慌ただしくエレベーターへ向かい駆けていく。

『佑那ちゃん?こんな遅い時間にどうしたの?』

「!?」

 フロア放送で声を掛けられた佑那は慌ててスタジオの方を向く。

「あのっ!ダンジョンが崩壊して中からモンスターが出たという事で…ここの防衛に!」

『ここは大丈夫だよ。一応結界張っているし』

「うちの神兵がモンスター群相手だと危ないと判定したんです!それに、それに兄さんの意識が戻るまでに…ここを守らなきゃ…」

「「「………え、っ?」」」

 佑那の台詞は全ての段取りを吹き飛ばすだけの破壊力があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る