549話 昏睡と魂衰


 SIDE:結羽人


 1時間経つが、友紀が目覚めない。

 一晩は様子見だが、もう一人が問題だ。

 緑の民。

 情報はあるものの、振れ幅が激しく、断定できない情報ばかりだった。

 神に弓引いた民。

 悪神を打ち倒したが、神々に封じられた民。

 傲慢が過ぎ、滅ぼされた。

 侵略者と戦い、滅びた。

 中でも分からないのが「緑の民は原初の神の子だったが、神族になる事を拒み封じられた」というどこか聞き覚えのあるような話だった。

「まあ、その事も含め…早く起きてほしいものだが…」

「ただいま゛っ!?兄さんっ!?美ショタが美少年になってるぅっ!?」

「吹き飛ばせ」

『お静かに願います』

 俺の台詞に呼応したリムネーによって佑那は外に吹き飛ばされた。

 バイタルと脳波をチェックしていたメンバーがリムネーを見て頷く。

 まあ、そうなるよな。

 しかし、あの一瞬で友紀の成長をよく見抜いたな…4~5センチ、成長期の子なら1年分の伸びか。

 顔つきもほんの少しだけシュッと細くなっているが…これは誤差だな。やつれたといえばそれまでだ。

 生命活動に今のところ異常は無い。

 ただ、魂の分解と再構成が起きたのは確認できた。

 目が覚めた時、それは本当に友紀なのか…という愚問は起きない。

 少なくとも異物が混入したわけではなく、異物を取り除くために一度分解されただけであり、再構成されているのだから。

 そして胸元には少しくすんだ色の奉納貨が1枚。

「緑の民、覚醒します」

 場の空気が一気に緊張する。

「───んっ、っ!?」

 緑の民は急覚醒をし、一気に体を起こした。



 俗に言うエルフに近い…のは耳くらいか。そんなに長くはないが。

 身長は前の友紀と同じ程度で髪は深緑、いや蒼黒で腰辺りまでの長さだ。

 体つきは佑那と同じ程度か…胸は佑那が少し負けているな。

 観察はここまで。

「言葉は分かるか?」

「……ええ、この子と一緒に学んだもの。4カ国語なら喋ることが出来るわ」

 友紀の方を愛おしそうに見ながらそう答える。

「それは良かった。意識に直接語りかけるか、カタコトなエレウフィン族語しか方法がなかったからな」

「えっ───いやなんで私の世界の言葉分かるのよ」

「学んだからだが」

「…もう世界は無いのにどうやって学ぶのよ…」

『難しい用語はわからないが、日常会話ならば問題無い』

「本当に、本当にこの人一人で全てが終わらせられるんじゃないの!?」

「お静かに」

「ああ、ごめんなさい…怒られちゃったじゃないの」

「俺は静かに喋っているが?」

「~~~~!」

 怒りたいが大声を出せず、僅かに身悶えして怒りをアピールしている。

「詳しい話は友紀が目覚めてからだ」

「───目覚めると、思っているの?」

「ああ。ショックで目を覚まさないだけだ。魂の状態もあの時と同じ状態だからな」

「!?貴方、見えるの?」

「いいや、見えはしないが、感じることは出来る。今友紀はあの時の状態だ」

「………」

 彼女はジッと友紀の方を見る。

「良くて廃人。普通は死ぬわ。なのにどうしてこの子は…」

「死の淵に居ても他者の為に心を砕くような子だぞ?家計を心配したり、葬儀代心配したり、毎日来る俺らを心配したり…

 我が侭を言えと言ったら「あと2分だけ手を握ってお話ししよう」だぞ?佑那が同じ事聞いた時は「僕の代わりに兄さんと思いでたくさん作ってね」と言われたらしい」

 あ、全員の涙腺崩壊した…しまったな…


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