547話 奉じ事、奉還
お夕飯を作り終え、一段落したので神所へと向かう。
あの島の仕上げをするためだ。
依頼自体は終わっているけど、アフターサービス的なものだ。
一応、あの島の座標は覚えているから大丈夫。
まあ、ついでにダメ元で願い事も奏上するけど。
気を鎮め、個を抑える。
神々へ奉じる。
彼の地が神々と人にとって一時であっても安寧の場になるように。
「───祓い給い、浄め給え。神ながら守り給い、幸え給え───」
そしてここからはダメ元奏上。
これまで人々は親の居ない哀れな子のようなものだったのです。
神々の言葉が届かなかったために騙され、裏切られ、何も信じることが出来なかったのです。
信仰が廃れ、真に学ぶ意味を忘れた子らにもう一度救いの機会をお与え下さい。
祈り、低頭する。
何も昔に立ち返れとは言っていない。
遙か昔にまやかされ、道を見失った迷い子にもう一度知恵の光りと道を照らしてもらいたいだけ。
学ぶ意味というのも原初の学び…生きるための学びと発展的な学び、哲学的な学びなどあるけれど、何故学ぶのかや学ぶという行為そのものがどういう事なのか…
現在はシステム化されすぎて忘れてしまっているかも知れないこの根源を、思い出して欲しい。
単純に言えば学びとは信仰であり、伝承、継承である。
分かりやすいのは技術の伝承。学問も全て学び、受け継ぎ、高め、教える。
その中で、切り捨てられ、失伝したものや失われた学問もある。
せめて記録として残っていれば現在のような事態より幾ばくかはマシになったかも知れない。
何故昔の人間が記録をし続けたのか。
それは失うことの恐怖からだった…そう。だったのだ。
時代が進み、権力が諸々に影響するようになると不都合な記録は削除され、あるいは改竄されていった。
それこそが相手の思うつぼだったわけで…
ただ、その技術が残っていたら今のような世界になっていたかと問われれば…分からない。
でも、失われた知識、技術を神々は知っている。
ダンジョンの外にいる害をなす妖魔や、ダンジョン侵攻で現れるようになったモンスター達に対抗できるだけの知識と技術を得ることができれば…と思うのは、傲慢なんだろうか。
───傲慢よ。人が自らの意思で行ったことだもの。新たな技術をもてはやし古きを完全に捨て去ったり、欲に駆られて失ったのならそれは人の責任よ。
「ですよねぇ…」
ため息を吐く。
でも、釣れた。お姉さんが。
「ところでお姉さん。お姉さんは狩人ですか?」
───突然ね?そうよ。
「では、今この奉納貨をお姉さんに捧げたら…復活できますか?」
───私は貴方に溶け込んでいるのよ?
「できるんですね」
───…できるわ。でもね、かなり危険なの。
「あ、ちょっと待っていてくださいね?…兄さーん」
───えっ?ちょ、もしかして…やる気なの!?
兄さんが神所に入ってきた。
「どうした?」
「お姉さんを復活させたいんだけど、かなり危険みたいなんだ」
「それは恐らくお前が危険って事だと思うが?」
「それは問題無いと思う」
あってもあの時の溢れていく恐怖と、削れていく痛みと同等だとは思うから。
「…念のために残機増やしておけ」
「…僕が貰ったものはアムリタになったし、あっても僕一人で食べるの勿体ないよ」
「アレからもらったヤツ、冷蔵庫の横にある野菜庫に入れてあるぞ」
なんですと?
「……あれって、そんなポンポン手に入るような物じゃないでしょ」
「くれるんだからもらっておけば良い」
まあ、うん。ありがたく戴きますけど…じゃあ、さっさと食べて準備しようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます