531話 課長の質問と、藤岡個人の矜恃。
SIDE:藤岡課長
カウンターの方へ行くと確かにギッシリと報道関係者が待機している。
「これは、業務妨害で通報した方が早いんじゃないか?普通に迷惑だろ」
私は津々谷主任にそう言うと、カメラが一気にこちらへと向く。
「もしダンジョンから緊急搬送でここに来てもこれだけの邪魔が居るんだ。助からなかった場合は報道陣は勿論自分らのしでかしたことを報道するんだよな?」
「それは脅迫ですか?」
どこからか女性記者の声が聞こえた。
「いいや?純然たる事実だぞ?ああ、今朝方ダンジョンから負傷したと偽って緊急搬送されてここに来て入り込もうとしていたが…週刊文聞さん?お仲間を迎えに行かなくても良いのか?探索業務法第11条6項に抵触したため逮捕されたぞ?」
報道陣がざわめく。
「勿論この事もキチンと報道するんだよな?まだあるぞ?君達がお望みのネタが。その質問に応えられるのなら場を取り持とうじゃないか」
私の台詞に報道陣は喜色を浮かべる。
しかし私の質問が上げられていくと共に全員の顔色が悪くなり、慌ててカメラを切る者も出てきた。
「なんだどうした。キチンと証拠もあるし現在届け出も受理されて動き出した問題だぞ?これらの質問に答えてくれよ」
「貴女はっ!公共の放送をなんだと思っているんですか!」
「あなた方の言う「国民の知りたいこと」だぞ?昨日の件もそうだが、愚かで無遠慮で悪意しか無い質問によって神々の怒りに触れ、結果何万人もの人間が死んでもあなた方に責任はないと言い切れるのか?」
「言い切れます!」
誰かが大声で言った。
先程の女性記者の声だ。
「我々は真実を報道しているだけだ。神々に忖度する謂れはない。それによって不利益を被る謂れもない!」
「今の言葉、全員同じか?宣言出来るか?誓文に誓えるか?嘘偽りを以て他者を貶め、謀略を以て相手の尊厳を傷付けていないと…神明血判に誓えるな?」
私の特殊スキルは誓文とは違うが、代償がかなりエグイ代物だ。
「現在この範囲内全報道関係者の名が記されている。さあ、嘘偽りがないのであればこの神明血判に手を置きたまえ。
全員が無実であれば私の腹は切られるが、偽りがあれば偽った者達は私と同じ目にあうだろう」
「そんな横暴を!」
騒ぎ出す報道陣。しかし、私の次の言葉に全員が押し黙った。
「藤岡伊織誘拐殺人事件」
「───は、っ」
「アレは報道協定を破りメディア3社が報道した結果、殺害されたよなぁ…しかも偏向報道で。アレの謝罪を遺族は受けていないぞ?」
「………それとこれとは」
「約束を破った挙げ句当時探索者だった私に対しての嘘の報道…私の弟はあなた方の無責任かつ身勝手な報道で命を落としたんだが?
私は前回の会見の場で言ったはずだぞ?言動には責任を持てと。あの後神を怒らせたのは誰達だ?」
ああ、怒りがこみ上げる。しかし、これではない。
と、ロビーに掛かっていたテレビに速報が流れる。
ああ、まさに神懸かったタイミングだ。
それは報道各社へ一斉に警察の捜査が入るとの速報だった。
「昨日、巫女を襲撃しようと地下組織の人間が記者になりすまして潜入しようとして失敗した。しかも記者証は正規の代物だった。
それだけじゃない。あなた方報道陣のうち、数名そういった組織に情報を横流ししているよな?それらの証拠も昨日確保された。地下組織6つは既に制圧済みだ。
良かったな?一大スクープだぞ?汚職脱税犯罪被害、様々な悪事をあなた方のお仲間がやっている。さあ、それを取材し放送、記事化したまえ。それとも…これに手を置くか?」
カウンターの上に神明血判状を置く。
誰も、それに手を出そうとはしなかった。
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