529話 先手、毎日会合 後手、総理襲撃

 バウムクーヘンを作ったのは良いけど、粗熱取りと味を落ち着かせるために半日から1日は寝かせておきたい。

 端を少し厚めに切り落として味を確認する。

「───うん。卵が強い。バターと小麦が少し負けている気がする」

 卵は箱庭の物だけど、他は全部神域産。

 ただ、前回のモンブラン事件で神様方は『自分たち専用の』ワンランク上の農作物開発をし始めたため、かなーり凄いことになっているはずなんだけど…あと一歩かな。

 切り落としの部分を細かく切ってみんなに食べて貰う。 佑那以外に。

 この世の終わりのような顔をした佑那。安心して?その刑期が明けてから食べれば良いからね?

「───ああ、フォンダンバウム…ああっ!チョコバウム…プレーンもっ!」

「…佑那」

「はいっ!」

「煩いから外で待機」

「神はっ、私を見放したっ!?」


 SIDE:首相官邸


『神の国作りなんて前代未聞だぞっ!?』

『いや、世界作ったりしているじゃないか』

『あんなものは言っているだけだろう?…とは言えなくなったんだよなぁ』

『居ますからね。神は』

『それよりも審議の石板の機能が数日止まることの方が問題だぞ!』

「………」

 各国の代表が思い思いの事を言い合う。

 少し前までは月一レベルだったが最近は毎日のようにこうやってオンラインの会合を行っているが…今回は2時間コースかと磯部総理は心の中でため息を吐く。

『そもそも国として認めなければ良い』

『では神相手に土地を寄越せと言えるか?』

『いや、そもそもあちらが認めて欲しいと言ってくるわけでもないだろう』

「ああ、日本としては国として認めます」

『はぁっ!?』

 磯部総理の発言に反対と騒いでいた数カ国が過剰に反応した。

『うちもその方向で話をしている』

『議会へ仮に、と言うことで掛けるが、恐らく認める方向になるだろうな、うちも』

『国王が承認したのでこちらも認める予定だ』

 そしてそれに続くように3カ国が承認すると言い出す。

『まあ、永住する人間や政治形態、外交など国家形成のハードルは幾つもある』

『外交は早急にして欲しいな。あの鉄は欲しい』

『ちょっ!何故認める方へ話が行っているんだ!?』

『神々相手に抵抗するだけ無駄だと悟っただけだ。下手に刺激をして神敵扱いされたら敵わん』

 その一言に騒いでいた全員が押し黙った。


「───ふう」

 会合も終わり、大きくため息を吐く。

 色々な事が多く起こりすぎている。

 それが希望となっていることもまた事実。しかし───

 手元にある書類を見て顔をしかめる。

「恩を仇で返す国に、いつからなったんだ…」

 これも多様化というのだろうかとまたため息を吐く。

「左肩が上がらん…アイツ、肩パンなんて懐かしい真似を…まあ、顔やボディよりはマシか」

 甥の文臣が殴った所を摩る。

「沖縄のことも、なあ…」

 考えることは山のようにある。問題は常に起きている。

 ただ、何もかもが足りない。

 何よりも国民の大半と議員の大半に危機感が足りない。

「このままだと日本は滅ぶ、か」

 文臣に言われた言葉が頭から離れない。

「遅かれ早かれだが…今回のことで少しは危機感を持ってくれたら良いんだが…不安感止まりだろうな」

 意味の分からない楽観視。

 それを行っていた連中に今回メスが入る。

「…手遅れという事は無い」

 ───いいや、手遅れだよ。

「!?」

 磯部は咄嗟に動くと同時に右腕に強い衝撃を受け、勢いよく吹き飛ばされた。


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