519話 先手、母の味? 後手、狂信覚醒
「はい!林檎取ってきたわ!」
「フィラさんありがとうございます!」
「クッキーは薄力粉だけで良かったッスか?」
「タイムさんありがとう!」
下準備を終え、空間操作を駆使しながら並列作業で量をこなす。
「いや、そうはならないッスよ…」
「いつも以上に張り切っているのはあの本部に持っていって貰うから…よね」
「自分、あの本部では外に出たくなかったッスよ」
「出たら即死よ…」
ちょっと女子ぃ~
よし!焼き上がりも問題なし!タルトは…うん。食べたい!
クッキーは168個分作ったから…
「タイムさん、ゆる姉様に幾つ包むか聞いて来て!」
「ラジャ!ッス」
ラタンバッグを取りだしてラッピング袋を数枚取りだし、準備をする。
「4つに別けて欲しいらしいッス!」
「…35ずつ入れるかぁ…」
僕は袋にクッキーを入れ、封をする。
そしてタルトを紙箱に入れ、それぞれ4つをタイムさんに渡す。
「はい。ゆる姉様に渡してきて」
「了解ッス!」
タイムさんが姿を消し、一息吐く。
「さて、28枚余ったので皆さん1枚ずつどうぞ」
僕はそう言って報道陣と女性達にクッキーを差し出す。
「えっ!?いいんですか!?」
全員が驚きながら受け取り、そしてそれぞれが1枚ずつ取り、口にして固まった。
そんなリアクションされると困るんですけど!?って、泣き出した人もいる!?
あと磯部さん。昔食べた事あるでしょうが…
神域を出てフロアに戻る。
皆さんの顔色は少しは良くなっているかな?
「大丈夫ですか?」
「───はい。ありがとうございます」
数人ほどずっと何も言わずにカメラを回している。
ただ、それらは僕を映しているわけではなく、常に記者達を撮影していた。
「本日はありがとうございました」
ほとんどの記者達が帰ろうとする。
「あれ?まだあるらしいのですが…」
「あっ!いえ!もう十分で…」
「料理を見て再度質疑応答はしないのか?」
「………」
磯部さんの言葉に記者達の目が泳ぐ。
「磯部さん。無理はいけないと思います」
僕がそう言うと顔をしかめた。
いやいや…無理させちゃいけないですよ?
「では、戻られる方は私と共に1階フロアへ」
伊都子さんがそう言って転送ゲートの前に立つ。
それを見た報道陣のほとんどが我先にと向かい、そのまま転送してしまった。
「───それで、残った5人とアイドルさんとそのマネージャーさんは?」
「はいっ!私を巫女様の弟子にしてください!」
女性が突然頭を下げてきた。
「えっと?」
「ずっとずっとファンでした!」
えっ?
「ずっと?」
「はいっ!初めてのみ子チャンネルの時からの視聴者です!だから巫女様が今日言っていたことは知っていましたし、改めて知ったこともあって興奮しています!」
「…うん。目がキラキラしてるね…あと、この神威の中でも大丈夫なんだ…少しキツそうに見えていたんだけど…」
「はい!早いうちに慣れました!でも悟られないように演技していました!」
なんか凄い子が来たぞぅ!?
「あ、でもここを引き払う準備をしないと…」
「巫女様。それをする必要はありません」
「えっ?」
記者さんがそう言うと、他の記者さん達も頷いた。
「近日中に問題のあるメディアは彼等の言う民衆によって裁かれるかと思われますので…もう暫く待機の方、よろしくお願い致します」
そう言って記者さん達は深々と頭を下げた。
えっと…何がどうなっているの?
磯部さんを見る。
磯部さんも困惑している。
「全ては樹神ユグドラシル様の忠告からなのです」
ゆる姉様?本部行く前にそこら辺教えてくれても良かったのではないのですかね!?
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