516話 先手、危険域 後手、中務省解体?
「……オマエ等、馬鹿なの?か?」
これまでの質問と僕の回答を確認した磯部さんが発した第一声がそれだった。
「なあ、俺昨日言ったと思うんだが…機嫌を損ねたら日本の結界含め世界から色々な物が無くなるからな?と。自身の命どころか家族親戚全員の命すらも消し飛ぶ覚悟で来いよとも言ったぞ?」
記者さん達を見渡す。
「巫女に何を言わせたかった?だいたいの見当はついているが、その歪んだ権力へのコンプレックスは何とかならんのか?暴力には簡単に屈しておきながら権力には屈しないとほざく矛盾は何なんだ?」
流石に記者さん達もその台詞にカチンときたのか磯部さんを睨むが、声を上げる人はいなかった。
「結局お前達は巫女を悪者にして叩き落としたかった…いや、こき下ろしたかったんだろ?残念だったな。此奴は元々隠者のような生活が基本の社畜だぞ?
それを分かっていたから日本を裏切る国賊にでも仕立てようとしたか?良かったな。悪人には仕立て上げられなかったが結果何万人死ぬかも知れない事態に陥らせた」
磯部さんが息を吐く。
「知る権利と言いながら大したことを聞いてないよな?配信で喋っているようなことだけだろ。更に言うとなぁ…オマエ等、一人でも巫女に謝ったのか?報道で冤罪を大々的に打ち上げておいて直接謝罪は無しか?」
いや、別に要らないですけど…この人達面倒なので、なんて言えないかなぁ…
あと磯部さん、酒臭いのが余計に…
「あ、そうだ。磯部さんにこれお返ししておきます」
僕は先程話の出ていた書類一式を磯部さんに渡す。
「───確かに、受け取った。俺は担当大臣ではないが、必ず担当に渡す」
神妙な顔で磯部さんが書類一式を受け取る。
「外交特権でもメディアや悪意から守ることは出来なかったからな…」
「移動はどうしよう…すぐに退去ってのは…」
「すべて一度神域に移動させるので問題は無い。まあ、一度世界中の審議の石板含め色々な機能を静止させる必要は出るかも知れぬ、それはそちらの方々の自業自得という事で」
せお姉様の台詞に記者さん達全員が絶句する。
そんなにすぐにどうにか出来るとは思わなかったんだろう。
「じゃあ、ここも売却ですか…神様居ないのであれば僕がここに居る意味は無いので」
「待ってくださいっ!それは、見捨てるという事ですかっ!?」
記者の一人が叫んだ。
「いや、見捨てたのはオマエ等だろ?国民の声がそうなんだろ?」
「街頭アンケートの結果であって───」
「それを世論の声と言ってあたかも全員がそう言っているように語ったんだろ?」
「っぐ…」
容赦の無い返しに記者が黙る。
「磯部さん。良いんです。僕は特権をお返しした時点でこのマンションは全機能を停止し、神様方は神域をここから退去させなければならない。国ではなく世論が疑問を呈し勇気を持って訴えたのですから…僕が傲慢だと」
「良かったな。リアルで巫女にゃんこの世界が近付いたぞ?頭の良いオマエ等だ。それが見たかったんだろ?絶望の世界が。あの七日間で懲りなかったんだな」
お酒が入っているせいか、磯部さんやたら攻撃的すぎません?
と、伊都子さんがどこかとの電話連絡を終え、こちらへやってきた。
「───中務省を代表して神祇大副、巽伊都子の名において発言致します」
途端に空気が凍る。
『此度の公開放送に際して別側面での民の代弁者である報道機関の声を聞きたいとの神々の要請を受け、二度も愚かな間違いは犯さぬだろうと信じた結果、過去の謝罪はなく、神々への挑発及び巫女の否定を行った。
巫女の否定は我々中務省の否定と同義であり、神々への不義理を行ったとして東家神祇官巽家並びに西家神祇官猿女家は本日只今を以て宮中並びに行政職全てを辞する事を宣言する。尚、これは中務省立ち上げの際に辞職定義として明文化されている』
神気や神威をだいぶ和らげたこのブース内に圧が掛かる。
「───オマエ等の馬鹿な行いのせいで、自衛隊は一月保たないかも知れねぇな。色々曲げて門戸を開いていた所が閉ざしたぞ?これで公の機関で古来からの繋がりを持つ者は居なくなったわけだ。新時代の到来だな?これを求めていたんだろ?」
いや、この人達はそこまで考えていないと思います…
多分情報も何も手元に来ないので一言物申したかっただけなんだと思うんですが…
僕は小さく息を吐いた。
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