512話 先手、フロア侵入 後手、ねつれつかんげえ

 全員が中に入ると同時に見えぬ圧力で足が震えた。

 特に隊員の次に降りた女性2人と男性は顔面蒼白で辺りを忙しなく見回していた。

「通常であればもう少し神気や神威は抑えめなのですが、先程までいらした大山祇神様の力が僅かに残っているようで…」

 そう言いながら案内の女性はすぐそこの食堂と思しき場所を見る。

「現在あちらには四つ柱の神々が居られますのでくれぐれも、くれぐれも粗相の無いようお願い致します」

「あのっ、大臣は…」

 隊員の一人が遠慮がちに問うも女性は何の感情もこもっていない声でこう答えた。

「前回こちらにいらした際、大山祇神様と約束をしたようなので…その約束を果たしているだけかと思われますさあ、参りましょうか」

 だけ。

 しかしその「だけ」がどれほどのことなのか。

 神に連れて行かれるという前代未聞の事態を目の当たりにした全員は震えながら女性の後を付いて歩いた。



「皆さんそちらの窪みのような部分にお立ちください」

 女性にそう言われ、全員が恐らくエレベーターがあったであろう部分に入る。

 ほんの一瞬のまもなく視界が切り替わり、同時に先程の比ではないくらいの神気と神威が全員を襲う。

 隊員達ですら歯を食いしばって半歩後ろに下がり膝を着くのを耐えるレベルだった。

「到着しました。皆さま、異界の神ユグドラシル様と祓戸様の御前です。転送場からフロアへ進み出てください」

 そんな中でも女性は何事もなく移動し、冷静に全員の動きを眺めていた。

 隊員達が動き出し、全員をフロアへと誘導する。

 むしろ隊員達以外はまともに立つことも出来ず這うようにフロアへと移動する始末だった。

 隊員と探索者以外は全員が脂汗と涙が止まらぬ状態となっている。

「さて、この様な状態の中、巫女様は朝から晩まで神々の世話をなさっておりますが…現在の状況から考えてもそれらを追体験していただくのは無理そうですね」

 女性の平坦な声に全員が顔を上げ、息を呑む。

 そこには女性と、人ならざる美貌を有した女性…女神が二柱立っていた。

「ようこそ、我等の庭へ」

「歓迎しよう。盛大にな」

 瞬間、隊員達すら立っていられぬほどの神威を感じ、膝を着く。

 隊員以外は失神したくても出来ないといった状態の中、

「あ、お見えになったのですね。ゆる姉様もせお姉様も威嚇してないでスタジオに誘導お願いします」

 まったく空気を読んでいないようなのんびりとした声が響いた。

「威嚇はしていませんよ!?」

「この姿だと少し強めに出てしまうんです!」

「あっ、そうなんですか?せお姉様は兎も角、ゆる姉様のその姿は初めてなので分かりませんでした」

 声の主はのほほんとした口調でそう言い、こちらへと歩いてくる。

「初めまして皆さま。僕は探索者協会探索部特務課医療班に所属しております岩崎友紀と申します。伊都子さん、案内ありがとうございます…済みません、ゆる姉様方が急な無茶を…」

「巫女様!?あっ、いえ。大丈夫です!これも仕事なので」

 先程までとは打って変わって緊張した様子の女性に全員が理解する。

 巫女こそがこの場で最も重要な存在なのだと。


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