509話 先手、巫女にゃんこショックβ 後手、お仕事!

 箱庭に戻ると佑那が虚無顔で乾パンを食べていた。

「戻って来たか」

「えっと、兄さん。これは?」

「あの服を指示した犯人に罰をな…」

「えっ?罰になるの?」

「こちらが許可を出さない限りは最低3日は乾パンと青汁と塩のみだ」

 ああ、それは辛い。

「一食10枚までとしているから問題無いだろ」

「ふーん…」

 さっ、朝ご飯食べよっと。

「私の扱いが、問題神と同じ扱いになってるぅ…」

 どの神様のことを言っているのか分からないけど、馬鹿にしているのかな?



 出勤するとみんなが壊れていた。

 いや、巽さんもフロアであった時点で壊れていたんだけど…

「私に甘えても良いのですよ?お母様が戻られるまでだけでも…」

 と言われて「兄さんに処されましたが?」とは流石に言わなかったです。

 なので巽さんの目をジッと見て、

「巽さん。僕は巫女にゃんこではないですよ?」

 と言うとそこでハッとした顔をした後、顔を真っ赤にして謝ってきた。

 ───それのハイグレード版が大量ですわ。

 虚ろな目で「祈りが、祈りが足りないから巫女にゃんこが…」とか呟いている元大聖女様とか。

 僕を見た瞬間に突如滂沱の涙を流し「あっ、あれ?何故かしら…ははっ、涙が、止まらなくなったわ」と言う事務室のパートナー社員さんとか。

 何も言わずに僕を抱きしめ、背中をポンポンと叩いたあと「…済まないな。現実はもっと重い状態なのに、フィクションに負けそうになった」と、あのことを知っているような意味深なことを言う課長とか。

 なんかもう、出勤して10分経たずに一日分の精神疲労が…

 考えてみたらみこチャンネルの視聴者さん達って、あの後もコメント参加していたし…メンタルタングステンカーバイドかな?



 まさかの状態異常ではないという。

 状態異常を完治させる慈母の献身ですら効果無しって事は…うん。

 課長と巽さん以外全員が僕をチラ見しながらお仕事してます。

 無茶苦茶やり辛いです。

 あっ、

「今日も昼で上がりますので」

 課長にそう言うと「ああ、連絡は受けている」と返された。

 それとは対照的に巽さんは聞かされていなかったのか「!?」と少し驚いた顔で僕と課長を見ていた。

「馬鹿どもがマンションに来るんだが…連絡回っていないのか?」

「…済みません。昨日午後はずっと中務省に呼ばれて…」

「あの状態でか!?まさか朝まで…」

「はい…」

「巽。少し医務室で休め」

「いえ、調子は恐ろしく良いのです…皆さんも同じかと思いますが」

 全員が頷いた。

 まあ、調子は良いだろうけど、精神的な者はね…

「今なら岩崎が膝枕を」

「少し、休憩してきます」

 課長が小声で何か呟いた瞬間に巽さんが立ち上がり、医務室へと向かった。

 時折こちらをチラチラと見ながら。

 ───行きませんからね?

 巽さんを放置し、スキル考察のレポートを書き上げる。

 午前中は見事に通常の7割程度しか仕事が出来ない状態だった。

 ああ、この状態で午後休むの嫌だなぁ…

 時計を見ると11時55分。

「帰る準備をしたらどうだ?」

「はい…レポートも途中ですが…」

「スキルに関するレポートか。部長がありがたがっていたよ」

 提出して、喜んでもらえるだけの価値があって良かった…

 少しだけ気分が上向きになった僕は課長にお礼を言い、帰り支度を始めた。


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