504話 先手、わんわんお! 後手、ダム、決壊

 夕飯の準備を終え、のんびりしていたら佑那がやってきた。

 犬耳カチューシャを持って。

「兄さんは猫耳だけではなく犬耳も似合うと思うんですっ!」

 何言っているのだろうか。この子は。

「ほら、にゃんこ派ばかり優遇していたらわんこ派が拗ねちゃいますから」

「何言っているのだろうか。この子は」

 犬耳カチューシャを見る。


【わんわんかちゅーちゃ】神造:おみみうごくよ!よくきこえるよ!

 わんわんおーなぷりてぃカチューシャ。アディエーナ渾身の作。

 これを付けると聴力補助だけではなく10キロ内は空間転移が出来る。

 個人登録必須。最大3名まで。


 ───兄さーん兄さーんきーてくだサーイ!佑那が暴走してるんデース!

「佑那、ちょっと表出ろくびをだせ

 あ、兄さんお帰りなさい。



「胴体と頭が別れるところだったわ…」

 結構ズタボロになりながら佑那は戻ってきた。

「…一度別けて頭を冷凍庫に入れて置いた方が良いと思うんだ」

「私は愛と勇気だけが友達なひーろーじゃないですぅ」

 ぶーたれるけど、その声に力はない。

「2人に話すことがある」

 兄さんが来た。

 どうも真面目な話のようだ。僕たちは居住まいを正し、兄さんを見る。

「母親の話だ」

「「あー……」」

 僕と佑那は同時に声を上げる。

「契約違反どころか世界的に迷惑を掛けていたため、こちらで処理をした。現在は黄泉送りをして後はあちらに任せてある」

「「ほー……」」

「……興味なさそうだな」

「「うん」」

 僕も佑那もあの人に関してはほぼ他人という認識に変わりつつあるし。

「私、覚えている限り5~6回くらいだよ?会ったの」

「………えっ!?」

 そんなに少ないの!?ちょっとま……あー。

 確かに。佑那は週1、2回来ていた父さんと違い年一来るかどうかだったような…

「最後に会った時のあの蔑んだような目は…うん。絶縁して良かったとしか思わなかったし、絶対許さない」

「アレは父以外は99%どうでも良い人間だったからな」

「1%は?」

「友紀だ」

「兄さんでも1%……」

「伊邪那美命には話を付けてあるし、黄泉の次もある。まあ…生きて黄泉に下って地獄行きなんてそうそうない体験だろ」

 今地獄って!地獄って!



 夕ご飯を終えて一息。兄さんもアレに構っている暇なんてなかったはずだけど…食事をした後すぐに「本部に行ってくる」って、凄く疲れた顔して言ってたし。

 マイヤとリムネーは2人で楽しそうにおしゃべりしている。

 佑那は…課題をやっていたはず……ん?

「えいっ」

 頭にナニカを装着された。

「わんわんお兄さん!」

「………ゆーなさーん?課題していたんじゃないのかなぁ?」

「終わらせました!」

 マジかこの子。レポートあんな速さで終わらせられる?英文レポートを?

「僕をそんなに犬みたいにしたいの?」

「犬耳兄さんを見て悶え苦しみたかったんです!」

 そう言いながら写真を撮った。待って!写真撮らないで!

「もう!そんなことしたら噛み付いちゃうぞ!」

「是非!」

 あ、この子色々手遅れだ…

 僕は佑那に近付いて…耳たぶをパクリと甘噛みする。

「きゅっ!?」

 変な声出した?

「怖いでしょ?もうこんな馬鹿な……佑那鼻血鼻血!凄い鼻血出てる!」

「───麗しき兄妹愛が溢れているだけです…アモロッソォ…」

 なんか訳の分からないこといって佑那が倒れた。

「ちょ!マイヤ医療班呼んできて!」

『うんっ!』

 ああもうこの子は!


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