503話 先手、外交事情 後手、手刀(相手全滅のため投了)
SIDE:結羽人
それは突然の事だった。
諸々の処理を終え、さて帰ろうかとしていた時だった。
───助けてください。
「…ふむ?」
何度か覚えのあるテレパシー。
あまり良い思い出はないが、それを感じて立ち止まる。
「どうか致しましたか?」
俺の側にいた青年、外交官が気遣わし気にコチラを見る。
「少し頼まれて欲しいのですが」
「えっ?あ、はい。巫女様のご家族様であれば最大限の便宜を図るよう…」
「ああ、いやどうも妖精から連絡があって近くの国で1箇所だがダンジョン返し、要はダンジョンが裏返るというタチの悪い現象が起きているようで」
「っ!?」
ギョッとした表情でコチラを見る外交官にその国と場所を伝え、緊急渡航の要請を依頼する。
「確認が取れました!彼方の方でも緊急で軍を出動させるとのことでしたが、おそらく救援は間に合わないだろうと…」
「で、許可の方は?」
「それが、少し時間がかかるようで…」
悔しそうな表情の外交官に甘い人間だな、と苦笑する。
「であれば済まないが私がここに1時間いる事を証明してほしい」
「えっ?それは、構いませんが…」
不思議そうな顔をする外交官を横目に結羽人はジャケットを脱ぎ捨てる。
一瞬、
そこにはカーキ色の軍服姿で眼帯をした軍人が立っていた。
「!?」
「岩崎結羽人はここで待機していた。ここはちょうどカメラの具合もよろしくないようだし、証明できるのは貴方だけだ」
「えっ、あ…」
何が起きたのかと混乱している外交官に結羽人はそう言うとニィッと笑う。
「妖精が急かすのでな…少し離席させてもらう。ああ、少し後ろに下がった方が良いぞ?空間が歪む」
「え゛っ!?」
慌てて後ろに下がる外交官。
結羽人と彼の間に空間の歪みが発生し、ぼんやりと早朝の町並みがその向こうに見えるそれに結羽人は何の恐れもなく入って行った。
閑静な住宅街に姿を現した結羽人はビタリと動きの止まったモンスターの群れに目をやる。
「ふむ…」
少し考える素振りをすると両手を下から上へとクロスさせるように振り上げる。
するとその両手から白銀に輝くXの形をした何かがモンスター目掛けて放たれた。
『!!?』
慌てて回避を試みるモンスター達だったが、結羽人の放つ濃密な殺気に足がすくんだのか回避行動が緩慢となり───
ザンッッ
十数体のモンスターがその白銀のXに斬り裂かれた。
「やはり脆いな…」
結羽人はそう呟き左手を斜めに構えると手刀に力を集中させる。
先ほどと同じように手刀部分が白銀に輝くがまだ力を注ぐ。
やがてそれは赤銀色となり、その周辺が蜃気楼のように揺らいで見えた。
その力に恐れをなしたモンスター達が逃げようと一斉に動き出した。が、
トンッ
結羽人は軽いステップで前へ跳ぶとその姿が消え、
トンッ
モンスターの逃げる先へ姿を見せ、
トンッ
空へ逃げようとしたモンスターの上空に姿を見せ、
ザッッ
元の場所へと戻ってきた。
赤銀に輝く手刀を血振りするように払う。
ドジャッ
ほんの一瞬前まで動いていたそれらは地上上空分け隔てなく殲滅され、消滅した。
「…任務、完了。そこに隠れている夫婦よ、落ちているアイテムは後から来る軍人らに渡して欲しい。巫女の遣いが殲滅したと言えばわかるはずだ。それと、生まれてくる子のためにも逃げるのが正解だった…と言いたいが、その蛮勇に敬意を表そう」
振り返らずにそう言い、左手を上へと掲げると、乳白色の光が周辺一帯を覆った。
「1週間は保つ結界だ。そこの家の老婆をその間に説得したまえ」
夫婦が驚き辺りを見回しているうちに結羽人は姿を消した。
姿を現し、そして消えるまでのその時間、僅か3分弱の出来事だった。
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