502話 先手、妖精通信 後手、真移動手段

 SIDE:スタジオ


「…んっ?」

 数百ある観測点のうち、一箇所の異変に気付いたのはユグドラシルだった。

「───ちょっとこれ見て」

 深刻な表情で問題の起きた観測箇所を拡大する。

 ダンジョンを映ししているそのカメラは縦に振動を起こしていた。

 そしてダンジョンがその振動にあわせるように縦に動き…

 ベロンと、外皮が向けたようにダンジョンが捲れた。

 そして中から一つ目人間のようなモノや小鬼、翼の生えた蛇等が次々と姿を現した。

「…一箇所で試験的に試験運用してみたという所かな」

「何あれ気持ち悪い…」

「ダンジョン返り、もしくは反転とも言うダンジョンの最終手段だよ。出来るかどうかの試験運用なんだろうけど…」

 ゾロゾロと数十、数百ものモンスターが姿を現し、聖域の壁を叩く。

「結界は反転と同時に対消滅したかぁ…この軍勢だとこれくらいの壁じゃ耐えられないよね…って、近くの家にまだ人がいるんだけど……あー、屋敷妖精とかがいるのなら暫くは目眩ましはできるか」

「あ、妖精がこっちに気付いた」

 妖精というフレーズにコメント欄は反応するものの見えないため困惑していると、

「うーん…こうしたら見える?」

 祓戸がそう言うと何やら画像を操作する。

 すると、数人の小人がある家の周囲に姿を見せた。


【えっ!?大きくね!?】

【80㎝くらい…だよな?】

【小人って、10~20㎝位かと思っていたんですが】

【種類によるんじゃないか?】

【おっちゃん小人とかじゃ無くて普通のショタッ子ヒャッホー!】

【変なのが湧き出したぞ!?】


「緊張感無いね…この子達必死に救援要請しているんだけどなぁ…」

 コメント欄にそう突っ込むものの、ユグドラシルはまあ仕方ないかと息を吐く。

 要請を受けた以上、近場に誰か居ないかと有力者を検索し、動きを止める。

「なんで兄者が南欧にいるの!?」

「うぇ!?」

 思わず叫んだユグドラシルに別の調べ物をしていた祓戸がビクリと反応する。

「えっ?じゃあ妖精から直接兄者に通信繋いだら良くね?」

「あー…ちょっとやってみる」

 ユグドラシルは観測点に手を振っている妖精にメッセージを送ると小人が跳び上がり、震えだした。

「あ、ごめん。妖精に神託降ろした形になっちゃった」

「樹神殿なにやってんスか!?ああほら膝着いて謝りはじめた!」

「ごめーん…あ、連絡出来たみたい」

 謝っていた小人を別の小人が捕まえ、家の中へと消えていく。

 と、ダンジョン前の壁が破られ、モンスター達が侵攻しはじめた。


【来た!お婆ちゃん無事でいて!】

【妖精は隠すことのプロだ。複数いたからきっと大丈夫】

【でも、食料含め長くは保たないよ】

【場所は何処!?さっきユグドラシル様は南欧って言っていたけど】

【調べようがないんだよなぁ…】


 コメントが流れる中、モンスターの侵攻が止まった。

「来た」

「えっ!?もう!?」

 観測点付近の空間が歪み、そこから一人の人物が姿を現す。

「───やれやれ、妖精はせっかちでいけない」

 そこにはカーキ色の軍服に眼帯を着用した結羽人が立っていた。


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