409話 青森支援部隊帰還とダウン

 妖魔以外を透過し、着弾と同時に微小ながら聖属性の結界を展開する光の弾針。

 高高度から射出された光の針は雨の如く降り注ぎ、妖魔には絶望を、生者には希望を、神聖な者達には活力を与える。

「───全部隊撤退。後は現地の方々に任せよう」

 白城はそう言い、全部隊への通信を切る。

「護衛士官。全部隊到着したら帰還してくれ。私は先に戻る」

「承りました」

 ゲートに向かって歩く白城だったが、その足が止まった。

「…主様」

 ゲートを挟んだ箱庭側から申し訳なさそうな顔で友紀が顔を覗かせていた。



「無理言ってごめんなさい」

 元の少年?の姿でシュンとした顔の友紀を見て抱きしめたい衝動に駆られたものの、理性を総動員して白城は微笑む。

「いえ、必要な事でした。それに、アレは神聖属性の広域回復支援魔法ですから。

 妖魔の類にとっては攻撃と思われるでしょうが、人や神の眷属などには無害どころか有益な支援魔法です」

 そう。あれは聖光照射リミッターを解除し、全拠点及び移動拠点等を繋いで上空に照射滞留させ、曼荼羅陣式によって聖光が属性変異を起こし神聖属性となり微回復を伴った聖光針となる。

 上空で聖光を滞留、属性変異させるための曼荼羅陣とのリンクを切ることで曼荼羅陣が消失し、聖光針はその崩壊エネルギーによって射出される。

 そう言った仕組みである。

 大変なのは曼荼羅陣であり、ぶっちゃけ拠点や移動拠点等が多ければ多いほど司令武官の負担は軽くなる。

 首をかしげる友紀に再び抱きしめたくなる衝動を感じたが、再度鋼鉄の理性で衝動をブロック。

「良かったぁ…今回は被害規模が広範囲すぎたから白城さん無理して攻撃の切り札切るだろうなぁって専守過剰防衛指示したから」

「───状況によっては、攻防一体の戦術兵器やワンランク上のダモクレスなど使っていたかと思います」

 ゆっくりと、

「ただ、それらを使うには、まだ…力が溜まって」

 草原に白城が横たわる。

「白城さん!?」

 友紀が慌てて抱き上げる。

「っ、ははっ、アレを使うにはちょっと、力が足りなかったようで…範囲が広すぎましたね」

「白城さん!これを一口飲んで!」

 友紀が小瓶を取り出し、白城の口元へ持っていく。

 そして一口───

「っ!?あっま!!」

 慌てて上半身を起こす。

「だって蜂蜜だもん。ここの」

「は、蜂蜜?いやしかし何故……?」

 自身の体の異変に気付く。

 枯渇による強烈な頭痛や喪失感がかなり改善されている。いや、改善されていく。

「何故?は?どんどん改善、いや、満たされていく?」

「良かったぁ…濃度によって継続回復が違うって書かれてたけど、アムリタの原料だしいけると思ったんだよ」

 ホッとした顔の友紀に白城は「ん?」と反応する。

「あの、主様」

「何?」

「今、アムリタと申しませんでしたか?」

「うん。言ったよ?」

「これは、蜂蜜では?」

「うん。ここで採れた蜂蜜。アムリタの原材料の一つだって」

 まるでミックスジュースの材料の一つを言うかのような気軽さで爆弾を落とされ、白城は別の意味で目眩を感じた。

「ブゥ!」

「あ、玉兎。どうしたの?」

「ブゥゥ!」

 そこに玉兎がノシノシと歩いてくると、友紀に小瓶を手渡す。

「あ、金桃のお薬?ありがとう!」

「ブゥブゥゥ」

「分かった分かった。蜂蜜は全部じゃなければ自由に使って良いから」

「ブウッ!」

 玉兎は踵を返すと去っていく。

「───あ。アムリタ完成させちゃってる」

「ちょおっ!?」

 友紀のその発言は白城のあらゆる何かを引き剥がすのに充分過ぎる発言だった。


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