408話 白城とメリア
SIDE:十和田湖拠点
「───了解した」
通信兵から主のオーダーを受け、静かに通話を切る。
専守防衛のプロとして云々ではない。これは対人の戦術が通用しない相手からの一方的な侵攻だ。
しかし、我等が主は専守過剰防衛と言ってきた。
「青いな。私も」
小さく苦笑し、拠点前に立つ。
その目の前には大蛇が鎌首をもたげた後、拠点への体当たりをする。
それを重装救命士達の構える盾と不可視のシールドで防ぐ。
「邪魔だ」
刀を鞘ごと上に掲げ、抜刀と同時に振り下ろす。
ただそれだけで大蛇は縦に斬り裂かれ、絶命した。
「全支援部隊重装救命士諸君、我等が主からのオーダーだ!専守過剰防衛許可。警戒レベルを最大にし、リミッターを外す!これより2分、死ぬ気で守れ!」
県内方々に居る全部隊の動きが止まり、車両の周囲を重装救命士等が方円陣を組む。
「聖光照射リミッター解除。同時に光聖弾雨システム全機機動!」
「各自配置に就きました!システム完全稼働まであと97秒!」
「リンクスタート!」
白城の頭上に英数式で構成された曼荼羅が浮き上がり、拠点を包む。
その曼荼羅はゆっくりと上昇していく。
「全部隊へのリンク確認。ロック解除します」
通信兵の解除宣言と共に曼荼羅から各部隊の居るであろう方向目掛けて光の線が延び、更にその線の上を数式が駆ける。
「第二、第三支援部隊への完全接続完了。第一支援部隊への完全接続…すべて完了しました」
「システム完全稼働まであと22秒」
「第三部隊前方に大鬼が!」
「護衛士官による防衛は許可している!」
「カウント入ります!」
「大鬼は鬼童丸クラスです!」
「その程度であれば問題無い!」
「高度2,600メートルまで上昇。カウント7,6,5,4,3,2,1」
「光聖弾雨システム全解放!」
白城の解放宣言と共に、十和田湖南部103号線付近を中心に半径120キロにも渡る巨大な曼荼羅陣が形成された。
それは青森だけではなく秋田、岩手の空を照らす。
「降り注げ、光聖弾雨」
白城の静かなトリガーコールと共に範囲内全てに光の弾雨が降り注いだ。
「───おいおい防衛の神が攻撃の手札を切ったぞ」
メリアは動画を驚愕の表情で見ていた。
「あの方はいざという時はやる方です」
護衛士官は事もなげにそう言いながら攻め寄せてくる小鬼や亡者を掃射していく。
「いいや。支援と防衛の範疇を大きく出ることを極端に嫌う。幾ら我等が主大好きでもその信念を曲げることは恐らく無い」
「先戦の炎姫様が防衛をするようなものですね」
「そうだ………って、私は防衛戦も得意だぞ?」
「そうですね。積極防衛はお得意ですね」
「こんな状況だと守るも何もないだろ…ずっと相手が撃たれに来るんだから」
「そうですね…ひたすら掃射を続けている気分です」
「いや実際そうだからな?しかし、早く来てくれないかな…とっとと終わらせて帰投したい」
「もう飽きたのですか?」
「ああ。ずっと無遠慮にジロジロ見ている連中含め気に食わん」
「確かに、この様な事態になってもまだ危機感が足りないようですね」
「平和ボケが骨の髄まで染み込むと、こうなるんだな」
「「…………」」
メリアと護衛士官は無言になり、ひたすら掃射をするか、時折やってくる鬼などを我先に狙撃するだけの単純作業にひたすら従事した。
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