395話 偵察と神営業

 緊急通信を受けた白城は第一支援部隊の乗った特殊装甲車前面に搭載されたカメラが映している映像を確認し、絶句する。

 そこは薄黒い霧に包まれ、視界がほぼきかない状態となっていた。

 だが、地面からは痩せ細った手が出てきては何かを探るように動いたり、うめき声が絶えずそこかしこから聞こえていた。

「なんッスか…って、うわぁ…異界化と言うよりも、魑魅魍魎の世界ッスね…」

「これは…聖光器を!聖光器の照射を許可する!更に重装救命士に警戒レベルを2段階上げるよう指示!」

 白城の命令と共にカメラの前方が一気に明るくなり───異様な光景が映し出された。

 辛うじて直垂と分かる服と小袴姿…平安代の庶民や下級武士の着る胴丸を着用した明らかに死者と分かる者達が町中を闊歩していた。

 そして明かりに照らされた死者達はゆっくりと崩れていき、やがて風化していった。

「───探査状況は!」

『生存者は確認できません…まだ市街地に入ったわけではないので何とも言えませ』

 ガンッッ!

 装甲車に衝撃が走る。

「何だ!?」

『鬼です!鬼が金棒を投げつけてきたようです!』

「装甲車へのダメージは?」

『軽微。警戒レベルを上げていたためダメージを吸収できています』

「しかし、こうなっては生存者は厳しいかも知れんな…」

 一度撤退し、体勢を立て直すかと悩んでいた時、

「スマンがこれを前線部隊に届けて欲しいんだが」

 そう、声が聞こえた。



 SIDE:秋葉原


「秋葉原よ、私は帰ってきた!」

「まあ、外国から帰ってきての初だから間違っちゃいないと思うが…恥ずかしくないか?」

「みんなの苦笑が心地良い」

「いや失笑じゃよ?で、なんでわざわざ秋葉原?」

「えっ?本と円盤類とゲームソフトを買うため」

「………」

「あと、道具屋にね!ホントダヨ!?」

「本当に、ここに在るのか?」

「ある。銀座とここの2店舗で営業しているはずだよ」

「へぇ…魔水晶と特殊武器、アイテムの交換所ねぇ…」

「ええっと、たしか…会館を少し過ぎた所を曲がって…あれ?もう少し行った所だったかな?」

「待て待て待て!覚えとらんのか!?」

「微妙に方向音痴を舐めるなよ!?」

「世界規模で迷子になるヤツじゃったわ!…で、特徴は?」

「とくちょう?」

「くっそいい年こいた合法ショタは…!あざとい仕草をするでない!」

「やーいブーメラン刺さってるぅ!」

「警察に職質されてしまえ!」

「地味にいやな罵倒方だなぁ!…たしか第二ハヤシビル…………」

「目の前にあるな」

「あるねぇ…そこの外階段から上がって…」

「あるな。目の前に外階段」

「…うん。行こっか」

「お前は、ほんっっっとうに!」

「うええええん!ショタ爺がイジメるぅぅ!」

「…いっぺん全力で殴りてぇ」

「あ、これマジでキレかけてる…ほら!上行くよ!」


 非常階段を一番上まで上がった2人はスチールドアの前で立ち止まる。

「で?」

「えっと、このドアのドアノブを掴んで…横にスライドさせる!」

 ガラガラガラッ…

「設計者は正気じゃないな?」

「ごめんくださーい」

「いらっしゃいませー」

「マジか…マジじゃな…」

「林景品交換所へようこそ!…って、久しぶりね」

「お久しぶりです。護符は在庫在りますか?」

「年代によっては在庫切らしているけど…君がいつも使っているホツマツタヱと阿比留草文字のものはあるわ」

「神代文字じゃと!?」

「ええ。うちは6年前からこういった商売させていただいてます」

 店員がそう言いながら出してきた護符は神気すら漂う代物だった。

「───待て、これは…神筆じゃな!?」

「流石香也君のお知り合いですね。そうですよ。岐の神様にアルバイトで書いていただいています」

「いや神がバイトて!」

「それ初めて聞いたんですけど!?」

「あれ?結羽人さんから聞きませんでしたか?」

「───あの人妖怪とかだけじゃなくて神様も拾っていたのか…!」

 香也は頭を抱えた。


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