394話 調理と任命

 はい。と言うわけで僕は今現場に来ております!

 何処の現場か?協会の食堂内、キッチンの一部を使わせていただいております。

 そして後ろには救命士の方が5名。

 料理は出来るのらしいですが、豚汁知らなかったので緊急料理講習です!

「まず、豚汁は地域によって味噌や具材が違います。しかし乱暴な言い方をすれば、豚肉が入っていればそれは豚汁です!」

 救命士達が「おおっ!」と納得の声を上げ、コック長が「おいおい…」と苦笑する。

「あ、でも宗教上の都合で肉を食べることが出来ない方もいるので、その方々用にはキッチン含め器具を完全に分けてください」

 豚汁の説明の次は野菜汁を作る。

「これには肉類や料理種類は入れないように。野菜は根菜類を多めにしたら体が温まるし、アク取りは少し大変かも知れないけど水の消費を少しは抑えられるから」

 作って見せて、食べさせる。

 うん。好評。

 で、残った物は持っていってもらおう。

「えっ?俺のは?」

 コック長は自分で作れますよね?



 SIDE:官邸


「これは、反則技だな」

「まあ、巫女様のやるこった。常識外のことでもそれは人のためだ」

 みこチャンネルを大型モニターに映し出し、それを見る二人。

 神域から次々と支援物資が運び出され、振り分けられる。

「しかし、平川市と弘前市が薄黒い霧に覆われているとは…」

「浅野さん、衛星ではどうなっているのですか?」

「三沢と青森市はまったく映らん。一番マシなのが弘前、八戸だが、ポツポツと明かりが見えるだけでほぼ見えん」

「三沢が麻痺しているのが痛い…」

 揃ってため息を吐く。

「ほぼ全ての部隊が出払っている中、これか…ほぼ手詰まりですね」

「今うちの私兵に支援物資を持たせて確認に向かわせているよ」

 事もなげに言う浅野副総理。

「私兵!?」

「と言っても子飼いの探索者達だよ。うちの地盤は荒くれ者も多いし街一つで経済完結させている所もあるからな…探索者のグループを結構囲ってるんだよ」

「で、その探索者グループに調査を依頼したと」

「ああ。中級甲種のグループ達だ。何かあればすぐに逃げるよう言っているし、問題無いだろう」

「達?」

「サブプランは大事だろ?」

 ───どう見たって人を騙そうとしているような笑顔にしか見えない。

「秋田駐屯の部隊から何名か斥候に行ってもらっていますが…十和田湖付近でアレだと秋田まで侵食されるのも時間の問題か…」

「その前に恐山辺りはどうなっているのかが怖いんだが」

「……ああ、北部の第11に連絡を入れて調査依頼を掛けています」

「手駒が完全に尽きているんだよなぁ…」

「範囲が範囲ですから」

 妖怪魔物相手に通常兵器が効きづらいということもあり、後手に回ったまま総理が3代替わっている。

 そして今回の聖属性付与。これで期待が高まった物の、習熟には時間が掛かる以上、すぐに動くわけにもいかなかった。

「……沖縄と、四国を見捨てたと言われても文句は言えないな」

「四国は第3師団と第13旅団から選抜し派遣しても…狸に良いようにやられていますからね。沖縄は…合衆国側任せだったのが裏目に出ましたね」

 四国は辛うじて連絡も付き、動きが見える状態ではある。

 問題は沖縄だった。

 通信途絶。一切連絡が出来ない状態になっており、部隊を送ろうにも九州も手一杯でどうすることも出来ない状態だった。

「なあ、早く新しい防衛大臣を決めろ。やっさん一昨日から意識がないんだぞ?」

 現防衛大臣は昨日意識不明となって病院に搬送されている。

 通常であれば副大臣が代行を務める───はずが、その人物はおよそ一月前にある事をやらかして罷免されており、空席となっている。

「任せられる人間がいないんですよ…自分の屋敷周りを部隊で囲みそうな連中ばかりですよ?」

「………いないかぁ…すぐに動けて、良い人材」

「浅野さんが兼務するというのは?」

「俺を殺す気か!?お前がやれ………んんっ?」

「どうしました?」

「いやいるだろ!良い人材が。独自部隊のようなものを持って動き回っているのが!」

「はい?」

「磯部文臣。警察庁警備局警備運用部内同立特殊災害対策部隊長だよ」

「……私がぶん殴られるパターンじゃないですか!」

「俺も殴られてやる!」

「親族経営、身内人事と言われそうですが、確かに動けそうなのは文臣くらいですか…残念ながら」

 磯部総理はため息を吐き、手続きの準備を始めた。

 本人には内緒で。


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