370話 出社と入国と

 今日は巽さんと出社です。

 そして先ほど聞いた襲撃のことを伝えると、周辺域の封鎖がされているらしい。

 巽さんも詳細は分からないらしいけど、封鎖域に人は入れないらしい。

“人は”ねぇ…

 協会駐車場に車が入る。

 そこには猫が待ち構えていた。

「待っておったぞ!」

 駆け寄ってくる猫に僕は首をかしげる。

「何かあったの?」

「家が襲撃されたのだ!まあ、事前に仕掛けられていた罠によって襲撃した連中は裏世界に送られていったが…」

 概ね兄さんが言っていた事と一致している。

「ただなぁ…何故襲われると分かっていたのか、九尾があそこまであからさまに周辺封鎖しておるのに…しかも見た事の無い妖魔達だったと驚いておった」

 千年以上生きる玉藻さんが見た事の無い?

 いや、封印されていたわけだし、見た事無い場合もあるか。

「あの、妖怪の類いではないと?」

 巽さんがそう訪ねる。

「うむ。ムカデの頭を持ち体は人間、しかし右手はカマキリで左手は剣…そんなバケモノもいたようだ。少なくともそのようなバケモノは古今東西聞き覚えない」

 ………うん。僕はそんな類のバケモノ見たら卒倒するかバーサクモード入る。

 一部の虫は駄目です。食品の敵です。

「情報ありがとう。はい、鮭おにぎり」

「おおおおおっ!感謝じゃ!」

 猫はおにぎりを受け取り、しまうと「またの」と言ってかけ去った。

「異世界からの侵略、ですか」

「ダンジョン侵攻の一つだよ」

 恐らく佑那を狙った犯行だ。それも戦力をある程度把握している。ただ、現在の職は分からない。

 ───まあ、十中八九…あの神様かなぁ…

 ふぅ、と息を吐いて協会へと足を向けた。



 SIDE:日本



「なんで日本人なのに入国審査で尋問まがいのことを受けるかな!?」

 香也は苛立ちをぶつけるように舗装タイルを蹴る。

「いやお前が向こうでやらかしたからじゃろうが」

 出迎えた少年が呆れたようにそう言うも、香也はその少年をジロリと睨み、

「思いっきりやらかしてこいと言ったのは誰かなぁ!?」

「儂じゃな」

 即答だった。

「……で?見回ってどうだったの?」

「ただひたすらに酷いの一言じゃな…」

「責任は感じないのかな?」

「無論感じておる。儂も阿呆ではあった…あの時奴の願いを聞き届けなければここまでのことにはならなかったのやも知れぬからな」

 沈痛な面持ちでそう独白する少年に香也は表情一つ変えず、

「ばっかでー」

 ビシッ

 周辺の空気が凍結した。

「おん?やんのか?祟るぞ?」

「おんおん?やんのか?バレるぞ?」

「───お前、伊邪那美様のアレを見てないからそんな軽口叩けるけどな…近距離に居たらお前も…アレじゃぞ?」

「アレアレうっさい。漸く生涯普通に遊んで暮らせるレベルのお金が貯まったんだから友紀に会いに行けるのに…」

 はぁぁぁぁ…とため息をはく香也。

 その姿はお小遣いを落して落ち込む子どもにしか見えなかった。

「お前は世のために働こうとは思わぬのか?」

「使い潰されるだけだろ?今回回って懲りた。それにさっきも国に引き込もうとしてきたから神明裁判やろうとしたら慌てて止められたなぁ」

 ニヤリと笑う香也に少年もニヤリと笑い返す。

「極悪人じゃな」

「無実の証明には手っ取り早いですしぃ?」

「そうか…そうじゃな」

「では、実家に帰らせてもらうとするか!」

「いやそれ言い方ァ…」

 グダグダしながらも改札口へと向かう二人だった。


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