323話 5day AM4~チート?
SIDE:巽
海坊主や船幽霊の情報を精査するとどうやら移動速度は遅いらしく、三浦半島を越えてもいないらしい。
ただ、これらの妖怪に対して現地部隊が対物ライフルを使ったものの、まったく効いていなかったという報告も入ってきた。
そんな中、マンションから一度戻り妹君を連れて行くようにとの祓戸様より指示が下りマンションに戻ったが…
「さあ、行きましょうか!」
「どなた、でしょうか」
法衣のようなものを羽織った男性なのか女性なのか分からない人物が満面の笑みをたたえて待ち構えていた。
いや、本当に誰ですか!?
「私です。佑那ですよ」
「いや、全然違う人になってますよ!?」
「ああ、失礼。っと、これで良いですか?」
元の姿に戻った妹君は嬉しそうに私の側に来る。
「新しい私のデビュー戦です!死ぬほど痛い目に遭った元は取りますよ!」
───どれだけ大変な目に遭ったのか分かりませんが、テンションが高すぎませんか?
「…では、行きましょうか」
「はいっ!」
エントランスに降りるとちょうど藤岡課長が戻ってきた。
「んんっ?佑那ちゃん?」
「はい!これからデビュー戦行ってきます!」
「えっ?海坊主か?大丈夫なのか?」
少し心配そうな藤岡課長に対して妹君は「大丈夫です」と頷き、
「はい!ちょっと死にかけましたが新しい職になったので空中戦力も増加出来ました!」
そう言ってファイティングポーズをとる。
「それなら…私も見学に行こうかな」
結局、三人で行く事となった。
「夜明け前!自衛隊基地!そしてあまり見えない海!」
車をかなり飛ばしておよそ一時間。
自衛隊駐屯地に到着したが、妹君はテンション高いままだった。
「佑那ちゃんどうした?無理矢理テンション上げて…」
「…こうしないと眠くて…体のダメージ蓄積が半端じゃなくてですね」
「そんなに辛いのか…」
以前神々との修行時にあれだけダメージを受けても暫くすれば復活して戦っていた彼女が疲弊しているというのも驚きだ。
しかし、そんな状況で戦えるのかが…
「しかし大丈夫ですか?」
「あ、私が戦うわけではないので」
「「えっ?」」
「部下?に戦わせるので大丈夫です」
───まさか、長谷川部長のような特殊職か!
どうやら藤岡課長も同じ考えに至ったようで妹君を凝視していた。
「こちらです!」
隊員に案内されて駐屯地から少し離れた施設内に入る。
「ちょうど今し方肉眼で確認出来る距離に到達しました」
その隊員がそう言って施設屋上の扉を開ける。
「昼間などであれば絶景が見えるだろうが…」
「まあ、平時にはここに入る事もできないでしょうが」
「一応こちらは関係者以外入れないようになっておりますので…」
隊員がそう言いながら手を上げると海の方を監視していた隊員の半数がこちらに走ってきた。
「現状報告」
「はっ!現在海坊主、船幽霊等海妖怪の一団は剱崎を越えて海獺島灯台付近まで迫っております!距離およそ3キロです!」
妹君が居るためか分かりやすく説明してくれた。
かなり時間が無い状況だ。
と、妹君が動く。
「…戦闘神官服男性に換装!そして───神域を守護する衛兵達よ!」
出迎えた時の姿になったかと思うと全身甲冑の騎士を8体召喚した。
これに隊員達が驚くが、
「全衛兵に告ぐ。目標はあの敵、海上を進軍する妖怪である。諸君等8名で対応可能と思っているが、如何か?」
ザッッ
甲冑騎士達は全員立礼をし、頷いた。
「では、征け!」
妹君の言葉と共に甲冑騎士達は天馬を召喚し、飛び立っていった。
「おいおいおい…まさか天馬騎士とか…ファンタジー過ぎるだろ」
───いや、そのファンタジーをぶった斬る事の出来るファンタジーな貴女が言う台詞じゃないです…
とは口が裂けても言えない。
「これで後は待つだ…」
自信満々にそう言いかけた矢先、8条の光の柱が海坊主等を貫いた。
「海妖怪一団の全滅を確認!繰り返します!海妖怪一団の全滅を確認しました!」
「……何なんだあれは…」
「一瞬、一瞬で終わったぞ…」
呆然とする隊員達。
そしてこちらの側に居た案内の隊員が驚愕の表情で妹君を見る。
「全衛兵よ。敵部隊が居ないのなら帰投せよ」
妹君は静かにそう言うと全員が再び戻ってきた。
「ご苦労。神域の警護へ戻れ」
ザッッ
一瞬で姿を消す甲冑騎士達。
「…貴方は、一体…?」
「私は神衛隊長。神を敵対者から守る者ですが、今回は巫女様の代理として特別に参加させていただきました」
妹君はそう言って微笑んだ。
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