315話 4day PM4~戦闘開始と、裏方と、クラスアップと
夜半前から降り始めた霧雨は止んだものの、曇天の空は世界を漆黒に染めていた。
国道沿いの街灯は周辺を照らすものの、頼りない。
車の往来の全くない車道に一人。
街灯に白い縄を結び、日本酒を掛けていた。
「……合計8箇所。全収集アイテムも持ったが…さて」
そう呟き、その人物は道の先、橋の先を睨む。
ソレは片側一車線の橋を埋め尽くしながらこちらへとゆっくりと向かってくる。
先触れとしてなのか狐狸の類と死霊が数十体橋を渡ってきた。
「ようこそ此岸へ、そして死ね」
一刀。
踏み込みと同時に抜刀し、自身のスキルと気合いを持って前方数メートルにわたって真空の斬撃を放った。
あらかじめ刀身を神酒で濡らし、退魔の作法を以て浄めた代物だ。
聖の気を纏った斬撃は狐狸死霊の類を一掃し、消滅せしめる。
だが、そんなモノは全体の数パーセントにも満たない。
「今回は、どれだけの刀を失うか…」
自身が負けることなどまったく考えていないような口ぶりで藤岡は刀を構えた。
「…やはり天狗もいますか」
「彩弥子姉様!職員の一人が百鬼夜行を望遠レンズで見てしまい心神喪失しました!」
「分かっていたことでしょうが…つまみ出してください。数日で回復します」
巽はそう言うとTRG-42 A1を構える。
「祈祷済み弾頭と祈念弾頭…これらが何処まで通用するか」
「姉様!本当に対空のみで宜しいのですか!?」
「ええ。私達ではどう足掻いても百鬼夜行には勝てない。それこそ東岳大帝を招聘しても神軍が来るか分からない。天狗や鬼火など浮遊妖怪を徹底して叩く。それと、もし橋を渡りきる妖怪が出たら即撤退するように」
「お姉様は?」
「…課長と共に戦いますよ。撤退戦ですけどね」
苦笑する巽に伊都子は内心「絶対に違う」と思いつつも何も言わずにM24 SWSを構えた。
「───いやいや…ないわー…え?耐性ありすぎひん?」
祓戸は脂汗を流してはいるものの、叫ぶことも倒れることも無く立っている佑那にどん引きしていた。
「何処の言葉ですか?…まあ、兄さんの気脈乱しよりはマシというレベルなだけです。ギリ耐えられている程度です」
「普通は叫んだりのたうち回ったり、泡吹いて倒れたり失禁したりともうとんでもないんだけど?」
「そうなんですか…この状態で走らされた私って…」
「どんだけ嫌われてるの!?」
結羽人の所業に顔面蒼白になる祓戸に対し少し遠い目をしつつも軽く首を振る。
「嫌われてはいないと思いますよ?対術師や対妖怪の想定戦の一環でやられたことですから」
「……ああ、そっか。精神汚染や邪眼対策か…いやいやそれでもだよ!?」
「恐らくですけど、こういう事が起きることすら想定していたのかも知れません」
「そんな無茶苦茶な…まあ、でもこれで器が出来た。さてどうする?女騎士からのクラスアップ先…聖騎士、聖女騎士、神殿騎士長、そして唯一職の神衛隊長の四職から選ばせてあげよう」
「神衛隊長って、どういうことですか?」
「ゆうくんの護衛専用職…みたいなものだね。ゆうくん、神様になったから」
まさかここの警備をさせられるのではないかと警戒する佑那に祓戸は事もなさげに爆弾発言をした。
「えっ?」
「で、全部の職、説明いる?」
「今神って…いえ、神衛隊長の説明だけお願いします」
「女騎士の基本スキルは君の血肉になっていると思うけど、それらは内部技能としてはあるけど、スキルには入らない。で、新たなスキルが4つ。
神域の守護者…これは防御スキルで聖壁というバリケードを張るんだけど、強度は使用者の耐性に依存する。神域や聖域、結界などを背にしている場合は強化される。
神域の衛士…意味合いは同じだけどこれは攻撃スキルで、強力な神聖属性を帯びることで破邪効果だけでは無く通常斬撃がスラッシュになるような攻撃強化スキルだ。
衛兵召喚…まあ分かっていると思うけど、10人の聖騎士を召喚出来る。ただ、聖騎士と言っても神兵だからかなり強い。鬼と単騎で互角以上の戦いが出来る。
衛士任命…これは君の友達に迷惑掛けたみたいだからお詫びで付けたよ。任命をした場合、12時間は神衛隊員となり、グループ化と神聖属性が付与される。
以上が神衛隊長という職だよ」
「いや、これ神衛隊長以外選択肢ないですよね?」
「だよねー…うん。これにして欲しいな。僕のためにも」
祓戸の台詞に佑那は首をかしげる。
「何かあるんですか?」
「抱き枕の件、バレたらぜっっっっっっったいに怒られるから。少しでも心証を良くしようと忖度しました!」
「───神様と思えない情けない発言ですね…」
本気で駄女神なのではないかと思ってしまう佑那だった。
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