165話 混乱~世界はたった一人によってかき乱される

 友紀の住むマンションの外は突然のことに混乱が起きていた。

 マンションのエントランスロビーのガラス面が突如不思議な動画を映し出したのだ。

 神社の参道中央に設置された舞台の上で少年とも少女ともとれる美貌を持つ神子が歌いながら踊っていた。

 混乱はその瞬間から起きていた。

 マンションを囲んでいた集団のうち、数人が人が反応出来ないような勢いでその映像から距離を取り、観察するようにジッと見始めた。

 そして、悲鳴を上げながら消滅していった。

「っ!?魔物だったのか!?」

 警官隊が盾を構え殺気立つ。

 その場に居た人間全員が騒然となる中、マンションを取り囲んでいた人々は我に返ったように周りをキョロキョロと見回し、口々に「ここは何処だ」「何故こんな所に」等々現状を理解出来ていないような人がほとんどだった。



「オノレ…何故、何故ダ!体ガ動カヌ!」

 教団各所でもマンション外と似たような騒ぎが起きていた。

 そして運命の時がやってきた。

 歌が終盤となり、神子が此方に手を伸ばし…画面全体が淡く光った。

「あああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」

 絶叫が上がり、全身から煙が噴き上がる。

「まさか、まさかまさかまさか!神ですらこんな事は…」

「あ、まだ生きているんッスねじゃあ、ゲートオープン」

 背後から声がし、同時に濃密な神威の奔流が叩きつけられ、それは消滅した。

「二次策完了ッスね!サラバダーッス」

 声はそれきり聞こえなくなり、部屋には何の気配もなくなった。



 SIDE:某国。ダンジョンスタンピード最前線



「御使い様だ…」

「そんな…信じられん…神は、神は…っ!」

 上からの指示で何を血迷ったのかタブレットを複数用意し、ダンジョン入口に設置。そして今配信中だという動画を流した結果のこの惨事だった。

 モンスター達が動きを止め、その動画を見たかと思った矢先に光となって消滅していく。

 小鬼やゾンビなどが次々と消滅していく様はその場にいる誰も見た事はなかった。

「神は、ディスプレイの向こうにいる?」

「混乱するんじゃない!今のうちに態勢を整えろ!数分でこれも終わるらしいぞ!」

「それでも武器を変える余裕があるだけありがたい!もしこの女性に会ったらハグするぞ!」

「だが男だ」

「………は?」

「歌が終わっ…ゾンビどもが消えた!?」

「うっそだろおい…ゾンビ殺すのに2、30発。ゴブリンなんて特殊弾頭撃ちまくってようやくだったのに…」

「すげぇ…うちの部隊の聖職者にアレ出来ないか?」

「無理言うな!司教クラスのアイクを見ろ。呆然としているだろうが」

「マジか…その動画の子は世界中回って何とかしてくれんかな」

「無理だろうなぁ…一応は本部に打診してみるか」

「…なあ、奴等、出てこないぞ?」

「……まさか、倒し尽くしたのか?」

「急げ!周辺確認だ!終わった可能性があるぞ!」



「ゴーストがこんなにいたとは…しかし、神託とは言え半信半疑だったが…」

「………」

「どうした?」

「尊い」

「ミシェル?」

「尊すぎて泣ける!」

「ミシェル!?鼻血が出ているぞ!?」

「大司教様。私、日本に行きます!」

「待て待て待て!何を言っている!?我々はそれどころではないだろう!?」

「ならば日本での案件をください!あるんでしょ?あるんですよね!?寄越せ!」

「さっきからどうしたんだ!?その少女の特殊能力が気になるのは───」

「は?(ガチトーン)」

「っ!?」

「見るからに美少年じゃないですか!これだからゴーストを見逃すんですよ…」

「………」

「明日の便で日本に行きますので。では」

「………」



[みこチャンネルこれにて終了です。みんな、良い一日を、ね?]

 撮影終了を確認し、大きく息を吐く。

 疲れた。何かがごっそり減ったような疲れ。正直動きたくない。

 でもそうも言ってられない。

 今日の夕飯を作るのだ!

 僕は気合いを入れて立ち上がり、後ろから抱きつかれた。


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