94話 移動~神域への出稽古のお時間です。

 佑那は兄さんから軽い駄目出しを受け、それを横で聞いていた巽さんがドン引きしていた。

「それはちょっと…簡単にできてしまうと教導官レベルとなるのですが…」

「コイツに関しては香椎家内武術の中位…退魔ではない通常体術であれば師範レベルですよ」

「そもそも香椎家内武術は一族のみの流派なのですが…」

「コイツの異常なポテンシャルに翁が例外として学ばせてくれたんですよ」

「兄さんは誰かさんを触れずに投げていたよね…」

「空間操作と合気のなせる技だな」

 ……絶対日本かぶれの外国人悪役ボスが使う投げ技再現したかっただけだ…

「前に体術だけで香椎のお爺さまと戦っていましたよね?」

 ジト目の佑那に兄さんは普通に「ただの組み手だからな」とだけ答えた。



 佑那を伴ってマンションへと戻る。

「兄さん。今日はどのような修行を?」

[いや、僕も分からないけど…神威の耐性とかからじゃないかな?]

「あー…確かにあんなプレッシャーを受け続けていたら何も出来ないですね」

[多分だよ?でも、ある程度耐性が出来たら突然誘拐しようとする神様や攻撃を仕掛けてくる眷属から身を守れるでしょ?]

「…そんな恐ろしいことがあるんですか?」

[えっ?だって邪神も神様だし]

「神様相手に戦うって無謀すぎでは!?」

[兄さんというトンデモ存在がいるのに?]

「───あの、通常退魔師であろうとも小妖を倒すのが手一杯であり、中妖はそれこそ退魔の部隊を率い何とか戦える代物なのです」

[うん。基本人は妖魔には勝てず、聖人など神聖系スキルを所有する人がいて初めてまともに戦える…それは分かっています]

「そうですか…しかし、限度はあります」

「えっ?そうなんですか?」

「はい。神聖系の職を有する方々はほとんどが非戦闘職であり、その職となった時点で体力等戦闘に必要な能力がダウンします。結果、神聖系戦闘職であっても一人で中妖を倒すことは基本出来ないのです」

[へぇ…あれ?課長は?]

「あの方は確実に例外です。一人で中妖を一刀のもとに斬り捨てましたし、大妖クラスも対処可能な方ですから」

[ちなみに巽さんは?]

「……残念ながら中妖クラスまでかと。切り札はありますが、最大でも相討ちです」

[その恐ろしい切り札は封印でお願いします]

「切り札…」

[佑那。目をキラキラさせないで?ああ、巽さん。午後は課長や佑那と一緒に神域で修行お願いしますね]

「………はい!?」

[っと!巽さん前!前!]


 マンションのエントランスには課長が待っていた。

 ───呼び出したのは僕ですけど!

「───まさか急に完全武装で来て欲しいと呼ばれて何かと思ったら…修行?」

[はい。せお姉様が課長の願いを叶えると]

「……ぇえ?」

[うん。その戸惑う気持ちは分かりますけど、まあ…神様のすることですので諦めてください]

「…そうだな。しかし、感謝の気持ちの方が強いぞ?」

[その感謝はせお姉様へお願いします]

「わかった。では、行こうか」

 課長は僕の肩にポンと手を置き、先へと促す。

 ───今日のお昼は、昨日より沢山作らなきゃ…

 僕はある意味覚悟を決めた。


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