83話 TS化した僕は直帰する(途中寄り道)

 会場の外も死屍累々デス。誠に申し訳ありません。

「姫様、お待ちください」

 未だダメージが抜けきっていない巽さんが少し小走りで駆け寄ってきた。

「急ぎ車を用意致しますので…その、服装の方を…」

[ああ、ごめんなさい]

 人目無し、カメラ無し…メイドモードにチェンジ!

「フロア、フロア、車を地下に回せ」

『了解』

「姫様。急ぎましょう」

[そんなに急ぐ必要ないと思うけど…了解です。あ]

「姫様。何かありましたか?」

[途中スーパーに寄ってください!]

「…えっ?」

 今夜はカレーなので足りなくなりそうな食材を買い足さないと…

「………」

[巽さん?]

「いえ、姫様はいつまでもそのままでいてください」

[???日常が崩れない限り僕は変わらないですよ?]

「いや、既に日常は崩れているような…」

[あー…多少は崩れているかも知れませんけど、朝起きて、ご飯を食べて、出勤して、同僚や親しい人と仲良くお仕事して…

 帰りに買い物をして、夕ご飯を作って食べて…一日に感謝しながら眠る。これは変わっていませんから]

「姫様…聖女より聖女していますよ…えっ?まさかとは思いますが、昔からそうでしたか?」

[えっ?はい]

 巽さんの足が止まる。

「…改めて言います。姫様はそのままの姫様でいてください」

 ええっと…日常が崩れない限り変わることは無いと思いますので。大丈夫ですよ。

【せお:むかしもこんな巫女がいたなぁ…老境になってようやくその境地に踏み入れることが出来たと感涙していたんだ】

【ゆる:うちの世界だと序盤くらいだったかなぁ…数千年経つとねぇ…】

【はは:しかし文明が栄えても尚それを当たり前と考え行える。自慢の娘です】

【ミツ姉:うちらの妹&娘尊すぎない?】

 あっ、伊邪那美お母さん漢字変換できるようになってる!って、もしかしてだけど、と言うか今気付いたんですけど、メッセージ機能ってグループチャット機能付きですか?

【せお:超頑張ったけどこの機能は今のところは君と僕達に対してのみ開放してる!】

 …まあ、開発者特権ですね。

 なんだかほのぼの気分で地下に到着した僕達は車に乗り込んだ。


「…本日はそのまま直帰しませんか?」

[…大丈夫かな?]

「一応課長にはトラブルが起きた際にはそのまま直帰しても良いと許可を戴いておりますので」

[流石巽さん。出来る人は違いますね…]

「ありがとうございます」

 ちょっと嬉しそうにはにかむ巽さんが可愛い。

「では、直帰という事で…いつものスーパーへ向かいますか?」

 うん。お願いします。お酒と…お漬物買わなきゃ(使命感)

 そうだ。僕はとんでもない事に気付いたぞ!

 プライベートボックスやプライベートバッグに保管しておけばお漬物は臭わない!

【せお:そ の て が あ っ た か!】

【はは: 】

【ゆる: 】

【ミツ姉:ちょっと!?お二方ほど笑い死に掛けているんですけど!?】

 それは…うん。勝手に僕の思考を読むゆる姉様と伊邪那美お母さんが悪い。

【ミツ姉:あまり変な事していると、神(笑い)殺しという称号が追加されますよ?】

 かなりいやな称号ですよ!?

「姫様、到着致しました」

[あっ、ありがとうございます]

「何か面白いことでも?」

[あ、うん。神様グループチャットでちょっと…巽さん顔、顔!]

「───失礼致しました。姫様がとんでもない事を言って神々が笑い死ぬような未来が見えた気がしたので」

 ───残念ながら、それ今やっちゃったなぁ…いや、死んでないと思うけど!

 スーパーに入ってまとめ買いをする。

 巽さんと僕はカートを押して結構な量を買い込んだ。

 ちょうどタイムセール直前だったからみんなそこに集中していて楽に買い物が出来た。

 そして酒屋さんに入り、

「いやあ…本当に神様へのお供え物だったんだねぇ…ビックリしたよ」

 前回同様普通の対応をしてくれた店員さんにちょっとホッとした。

[今回は日本酒メインで色々買いたいんですけど…]

「ああ!ただうちは誰にだろうとも適正価格だよ」

 ニヤリと笑う店員さんが格好良かった。

 あ…お漬物もある!

「ん?ああ、酒粕漬けとか、日本酒に漬物もよくあうから置いてるよ」

[今夜はカレーを作るんですけど…]

「あるよ(イケボ)」

 ノリの良い店員さんは奥からたくあん漬けと福神漬け、花らっきょうを持って来てくれた。

「たくあんはカレーにも日本酒にも合うからね!米感のあるきりっとしたキレのある日本酒がおすすめさ」

 そう言いながら店員さんは上機嫌で冷蔵庫へと向かう。

 うん。この店員さん、飲兵衛さんだ。

 僕は苦笑しながら予算は合計三万円で、と伝えると、

「神様も幸せ者だねぇ!」と笑いながら次々とお酒を取り出していった。


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