35話 TS化した僕は実家に電話をする

 リストとポーション二種と金板を巽さんに渡し、手配の方をお願いした。

「今日中に周辺店舗等に届くよう手配させます」

 と、頼もしい台詞とともに去っていった。

 無理させないでね!?


SIDE:巽彩弥子


「無理無理無理無理ぃぃっ!」

 部屋に悲鳴が響いた。

「無理ではなくやりなさい」

「彩弥子姉様!」

「このポーション2本だけでも数億の価値があります。ポーション開発含め多くの事柄が先に進むのですよ」

「それは分かっているけど!そうじゃなくてこれを持って外出たらアウトだって!」

「プライベートボックスに入れなさい」

「うう…」

 渋々としまう伊都子に彩弥子はため息を吐く。

「連絡は入れています。一時間もあればそちらに電話が来るはずですからそちらは任せました」

「彩弥子姉様は?」

 何か期待するような伊都子の視線にリストを見せる。

「姫が神々より依頼を受けたこの商品リストの手配をするのです」

「私がそっちを」

「できますか?交渉・折衝を」

「…無理です」

「であれば自身のできることをやりなさい」

「…では、武装準備をして参ります」

「宜しく」

 伊都子が部屋の奥へと消えていくのを見届け、小さくため息を吐く。

 あれで姫と同年か…経験が圧倒的に足りない。

 呪いの解除の件も分かっているはずだが、恩義を感じているようでもない。

 姫の、いや、神々の真意を察する事もできていない。

 姫は気にも留めていないが、神々は今朝の一件を含め見極めを行っている。

 先にやらかしたのはこちらの方。

 そして今現在も姫に群がる有象無象が外でウロウロしている。

 勧誘関連程度であれば夜までには完全に消えるだろうが、メディアやただの一般人はなかなか面倒だ。

 通常のメディアも多少の問題と言うレベルで済むが、ネットメディア…個人の自称報道関係者などや突撃動画配信者などが姫に興味を向けたが最後、何が起きるか分からない。

 問題は山積みだが、解決できるのは本当に少しだ。

「姫を、大切な、恩人を、絶対に守る」

 そのためにも少し無理を通すとしよう。



[あ、兄さん?ちょっとお願いがあります]

『声、変わったな。女性化でもしたのか?』

[なんで分かるの!?ってこうなったの連絡忘れてた!]

『大切な弟のことだ。声が変わったくらいで見抜けないわけないだろ?』

[流石兄さん…]

『お願いって何だ?』

[ちょっと会って欲しい人と試したい事があるんだけど…今度の休みって、いつ?]

『いつでも大丈夫だが、佑那がなぁ』

[どうしたの?]

『お前の所に行くと言ったら絶対に着いてくる』

[大丈夫だよ。引っ越しもしたから]

『引っ越ししたのか?お金が大丈夫か?大変なら出すぞ?』

[大丈夫!色々あって良いところのフロアをもらっちゃって…]

『その事も含めての話し合いか。了解した』

[本当に兄さんは頼りになるよ…]

『俺はしがない労働者だよ』

[兄さんはそう言うけど、絶対違うと思う]

『まあいいさ。佑那も一緒となると、夕方になるが、良いか?』

[うん。大丈夫。新しい住所は────だから]

『了解した。後で調べておく』

[うん。じゃあ明日楽しみにしておくね。あ]

『どうした?』

[えっと、完全武装って、できる?]

『ん?どういうことだ?』

[完全武装って、兄さんはどうしているの?]

『聞きたいことがよく分からないが、モードチェンジ機能があるからすぐに換装可能だぞ?』

[───うん。その台詞で兄さんがしがない労働者でも普通の探索者でも無いことが分かった]

『所詮ボッチの欠片拾いなんだがなぁ…まあ、細かい話は明日な』

[うん。じゃあまた]

 通話が着られ、僕は息を吐く。

 兄さんはやっぱり兄さんだった。

 その事にちょっと口角が緩むのが自分でも分かった。

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