17話 TS化した僕、やらかす?

 宴もお開きという事で、残ったお酒などは冷蔵庫に片付ける。

 ───やっぱりこの冷蔵庫、空間拡張されてる。

 まあ、ここ自体が神域だし、神様がいじれるようになってるし!

[そういえば、今後は夜の御神酒とかではなく、朝夕のご飯作りにここに来た方がいいのかなぁ…]

 ガタッ!

 リビングにいた三神が何故か一斉に立ち上がった。

「ゆーくんそういうところですよ!?好きですけど!大好きですけど!」

「誘ってるの!?惚れちゃうよ!?惚れているに等しいけど!」

「これマジで女性じゃないの!?ガワだけ女性化しているのにこんななん!?」

 えっ?

「本気で欲や義務とか形式的にって考えじゃなくて善意と信仰、そして敬愛かぁ」

 駄目ですか?じゃあ…かぁいいお姉さん達においしい料理を作りたいなぁ…とか?

 って、どうしてみんな顔を手で覆っているんですか!?

「モウムリ、カワイスギテツライ…」

「何この可愛い子!純真すぎない!?どんな生活と人に包まれたらこうなるのさ!」

「ハ、ヒュ、カ、カワッ、ハ、」

 ミツルギ姉様過呼吸で死にかけてる!?

 僕は慌ててミツルギ姉様を抱き上げてソファーに寝かせた。

「だ、大丈夫だ…少し疲れがな…」

そう言うミツルギ姉様に慈母の癒しを展開。

「ミツルギ姉様はずっとみんなのために頑張り続けていて偉いです。でも少しは休んでくださいね?私は姉様の笑顔が大好きなんですから」

「アッ───」

 あ、れ?なんで課長みたいにガクガクと痙攣してるの!?慈母の癒しって人を選ぶの!?



「あれが尊死か…うん。凄かった」

 ミツルギ姉様の全身が光ったかと思ったら僕の隣で何事も無さそうな感じで足を組んで座っていた。

「すっごい気力とか神力回復してるんだけど…」

 どこか呆然とした感じでそういうゆる姉様にミツルギ姉様が何かを悟ったようにアルカイックな笑みを浮かべた。

「戦神として自世界を治めているが、過度な癒しは兵器なのだと気付いた」

「何言っちゃってるの!?」

「さてはまだ正気を取り戻していないな!?」

 テーブルを叩く二神にまあ聞けとミツルギ姉様が手で制す。

「愛しさや敬愛、尊敬と信仰が人一人どころか決戦儀式術式で行うレベルの…それこそ数百人の信徒がただひたすらに私を崇めた時にこれに近い力を受けたな。こちらの方が雑念も敬愛も段違いだがな!例えるなら純真無垢な少年少女数百名の感謝の祈りをダイレクトに受ければこうなるのだろうな、と」

「自世界の信徒達負けてますよー」

 ゆる神様やミツルギ姉様は出張みたいな状態だから信仰に餓えているのかも知れないし…

「みっちゃんの世界は仕方ないよ。確か創世時にいた片割れの神様が何を血迷ったのか生物の進化は争いでしか起きないと言って自身の力の半分を魔物とそれを生み出す機構にしてしまったし、他の生物にも争う事が正しい事だと植え付けちゃったから」

 ミツルギ姉様の世界が想像以上にハードな世界だった!

「何その世紀末世界」

「欲望はそんなになくても争いのある世界、かなぁ…」

「ぶち切れてヤツを斬り捨てたが、その後七百年は大変だった…そこそこ文化的ではあるが、魔物は生活から切り離せないし農耕含め栽培関連はほとんどない世界だ。」

 ため息を吐くミツルギ姉様に苦笑していたゆる神様だったけど、僕を見て

「でもそっかぁ…ダイレクトに届いているからかもね。ちょっと私も試したい!」

 なんか言い出したぞぅ!?



「なんてチャレンジャー」

「さあこちら側へ来るんだ」

 なんかミツルギ姉様の台詞が当たっているようで当たっていないような気がするんですけどねぇ!?

 ゆる姉様はポテポテとこちらに来ると「んー」っと迷った後、僕の手を引き普通の椅子に座らせ、膝の上に座って抱きついた。

「ん。オッケー」

「オッケーじゃねーわ!」

 スパーンッ!

 せお姉様、そのハリセン、なんか神々しいんですけど?

「結構前に二日掛けて作った対邪神用の破魔扇だよ。まあ、中級探索者が装備しても憑依した中位悪魔までは叩き出せるし、下級邪神程度なら打ち合いできる程度には丁寧に作った」

 何その技術の無駄遣い…

「その上位互換がお前さんの巫女服と装備一式だからな?オーダー受けて一週間掛かった傑作だぞ?」

 そんな裏話聞きたくなかった!

「ほら、早く」

「離れる気ないのか!」

 まあ、やりますけど…あ、ちょっと思いついたんですけど、シチュエーションを変えてもいいですか?

「え?いいけど」

[えっとですね、いつもはお疲れ様ですという気持ちと、休んで欲しいという気持ちを籠めていますが、ここにお姉ちゃんへの気持ちを加えます]

「えっ?さっき籠めてたよね?」

[籠めてましたねぇ…ただ、ちょっと気持ちを切り替えて逆転させます]

「へっ?」

[僕がお姉ちゃんという状態で、頑張っている妹を心配しながら労ると「やる!」あ、はい]

「はやくはやく!」

 では…慈母の癒しを展開。

 そっとゆる姉様を抱きしめて軽く体を揺すりながら片手でトン、トンと優しくリズムを取る。

 小さな子を寝かしつけるような感覚かな。

 意識を切り替えて…

「小さいのに頑張っているゆるを心から心配しているんですよ?無理をしていないか…ゆるは強いし何でもできるのは知っていますが頑張りすぎてないか心配なんです」

「ふわぁ…」

「だから適度に休んで。ね?」

「…うん。やしゅむぅ」

「良い子、良い子…おやすみなさい」

「ふわぁぁぁぁぁ………」

 小さくあくびをしてうつらうつらし始めたゆるを暫くあやし、眠ったのを確認してそっとベッドへと運んだ。

「───おい、おい?」

「まさか、眠らない世界樹の神が寝た!?」

「いやその前にそのもの凄い鼻血を止めて。怖いから」

「あ、ああ。失礼。尊さには勝てなかった」

「ぇえー?」

 リビングが少し騒がしいけど、閉めたらきっと大丈夫だろう。


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