8話 TS化した僕は進化(?)する

「そう言えば新しい住まいの件だが」

[課長が殴り込みに行った件ですね?]

 僕の台詞に巽さんがかなり驚いた顔で課長を見た。

「岩崎の今の住居は一部の馬鹿供から情報流出している可能性があるので協会の責任で新居を手配するんだが…特級事故物件を用意してきてな」

「特級事故物件って…向こうですか!?」

うわ。巽さんの表情、会議室に殴り込みに行った時の課長と同じ感じだ。

「二年前に上級探索者が呪殺テロでやられたところがあっただろ。あのマンションだ」

「あそこはフロアごと厳重隔離処理中ですよね!?中務省とうちが揉めたせいで私がどれだけ大変な目に遭ったか……」

「まあ、巽家は中務省再編時の中核だったからな…」

「私がここから抜けられないと思ってやりたい放題ですね」

「───さっき岩崎と話していた件か。二十数年で合計死者が四四名だったか…鬼神の呪いもようやく潰えたわけか」

「二六年前の宮内庁ダンジョン崩壊事件を含めると総死者数二八八名ですね。呪いだけの死者は実は先月増えて六一名です」

「……そうか」

 宮内庁ダンジョン崩壊事件、授業で習った気がする。

「いや、思いっきり他人事な顔しているが、それを最終解決させたのは岩崎だぞ?」

[ぅえ!?僕何もしてませんよ!?]

「巽の呪いを解いたじゃないか」

[お疲れモードが酷かった巽さんに良かれと思って慈母の癒しを使っただけですよ!?]

「未知職の、未知スキルが凄すぎたのか、岩崎が凄すぎるのか判断に迷うところだな」

「姫様が凄いという事で如何でしょうか」

「それが一番な気がしてきたよ。マスコットから姫巫女へ進化したな岩崎」

[投げないで!?それと僕は姫じゃないです!ごく一般的な男の…男、でした]

「落ち込むな落ち込むな」

「岩崎様はそのお姿はお嫌ですか?」

[嫌というか、どうも落ち着かないというか…不思議なんですよねぇ]

「体と心がかみ合っていないからかも知れないが、未知の現象だからな。話を戻すが、住まいの件だが、明日にでも新居に引っ越してもらいたい」

[場所も何も分からないんですが!?]

「協会の所有物件の中で、ここから近く岩崎の利になりそうな物件と言う事で私が押し通した。これだ」

 課長はクリアファイルを僕にではなく巽さんに渡した。

[あの、僕の新しい住まいの件なのに、何故巽さんに…]

「ん?巽に引っ越しを手伝ってもらおうと思ってな。何せ収納バッグの使用許可まで取ったんだ。それなりの戦力が無いとな」

[収納バッグって、えっ!?マジックバッグの使用許可!?]

「ここも多少問題はありますが、確かに許容範囲ですね。それに近くて安全です」

 マジックバッグの使用許可に慌てる僕の横で僕の新居の詳細を見て納得した巽さんは僕に資料を見せてくれた。

 ───フロアまるごとって何ですk…って近っ!ここのすぐ側じゃないですか!

「フロアまるごと岩崎の所有物だ。と言ってもフロアに2部屋だけなんだがな。あと、その理由としては1部屋は異界化───ダンジョン化する可能性ありとなっているんだが、妙に引っかかるんだよ。一年もその状態が継続しているのと、現地確認もしたが、異界化と言うよりも何か別の領域のようでな…私の勘が岩崎をそこに連れて行けと囁くんだ」

[だからって、フロアまるごとプレゼントって…]

「協会の金だ。問題無い」

[課長が男前すぎて離れたくない件について]

「おっ?結婚するか?今なら巽もついてくるぞ?」

[何か無茶苦茶言ってる!?]

「兎も角、私の方でそこに決定しておいた。そのクリアファイルに入っているカードキーもすぐに使える」

[手回し早すぎません!?僕が気に入らなかったらどうしていたんですか?]

「気に入らないか?」

[最高の物件ありがとうございます]

「一応協会からの譲渡としている一方で異界化しかけている部屋の監視依頼を個別依頼という事で受理。その報酬を掛かる税金相殺分とした」

「流石課長。私は管理課へ行き収納バッグ貸し出し許可を受ければ良いのですか?」

「そのクリアファイル内に許可証も入っているぞ。管理課長のサインもある。期限は許可証提出後二十四時間だ」

「岩崎様。すぐに行きましょう」

 ───まあ、僕の部屋片付いているし、マジックバッグ使用であれば引っ越しも楽だと思いますけど…何かうまくいきすぎているような、レールに乗っているような気がする…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る