3話 TS化した僕は(狂)信者を得る

 朝食を運んできた看護師さん達が入口で跪いて祈りを捧げている件について。

 いやぁ…コレどうしよう。

 兎も角、巽さんを起こさないと。

 僕は巽さんを軽く揺すって起こすが、巽さんは起きる気配が無い。

 スキルはあと数分で切れるから・・・

 そっと入口を見る。

 そしてすぐに目を逸らす。

 パッと見ただけでも10名は拝んでいた。

 さっきの看護師さんどころかお医者さんや警備員らしき人まで。

 収拾がつかなくなる前に早く巽さん起きて!



 ───うん。無理でした。

 悪化した。

 凄く悪化した。

 巽さんは起きてすぐに状況を把握。

 即座に僕の前で平伏した。

 それはそれは流れるように綺麗な所作で平伏をし、それを見た入口の方々もそれに倣うように…

 コレどうしたら正解なの?

「岩崎様。我が一族の悲願、二重の呪詛を解呪していただき誠に、誠にありがとうございます」

 な に ご と で す か?

 超展開過ぎて分かんないですよ?

 そんな事よりもこの事態を収めて朝食を食べないと。

「…詳しい事情は後程伺います。今は周りに迷惑を掛けないようお願いいたします」

 うっわ僕の声違う。ちょっと気合いを入れて喋るとこんな声になるのか。あと思っている事と口から出る台詞がちょっと違う!?

『話はあとで。そんな事よりも朝ご飯食べたい』と言おうとしたらあんな言葉に変換されたんですが!?

 そして皆さんどうして更に平伏するんですか!?五体投地している人もいるんですけど、泣きますよ!?僕が!

 ほら廊下でお婆ちゃんが邪魔そうにして───こっち見た瞬間に拝みだした!?

 ああもう!僕が逃げるしかないのかな!?巽さんに押しつけるよ!

 朝ご飯食べたかったなぁ…



 無事に自宅に…戻るのはなんか嫌な予感がするのでそのまま協会へ出社したけど、視線が凄い。

 男女問わずその視線は顔や胸、腰回り、もしくは全身を舐めるような感じで見ているのが分かってちょっと気持ち悪い。

 建物の横、協会スタッフ専用のゲートから───

 ピーーーーーーーーーーッッ

 あ。IDカードに登録されている僕の顔と違いますやん……

 警備の人待ちかなぁ…いやもう一回わざと鳴らして呼ぶってのも(超迷惑行為)

 ピピッ

 えっ?

『イワサキ・ユウキサマ8ジ47フンニュウカンイタシマシタ』

 えっ?待って?

 カメラに対して顔の向きちょっと変えただけだよ?

 それで通るって事は、僕の顔そんなに変わっていない!?

 ………考えないようにしよう。

 スタッフ専用ゲートをくぐり、事務室に顔を出す。

[おはようございます。岩崎です]

 いつもいる午前番のパートナー社員さんに声を掛けた。

「おや…どちら様ですか?」

[あの、岩崎です]

「いやいやいやいや…うちにいる岩崎さんはもう少し小さくて、女の子のように可愛らしい子だよ!?間違っても…えっ?でも職員用ゲートを潜ってきたのよね?ぇえ?」

 やっぱり混乱してしまったかぁ。

 それ以上に僕、女の子みたいって思われていたのかぁ……

[昨日昼にトラブルがありましてこんな姿になりましたが、僕は間違いなく岩崎です]

「喋り方は間違いなく岩崎さんよね。……ああ、連絡事項に女の子みたいな子から美女になったって書いてあるわね」

 えっ?待って?日報になんでそんな書かれ方してるんですか!?

「ゲートも通れているわけだし、問題無いわね」

 いやいや、その日報が僕にとっては問題ですよ!?

 そう突っ込みたかったが、僕はアルカイックスマイルを浮かべ、軽く会釈をしてそそくさと自分の部署へ向かった。

 だってあのままいたら色々変な事聞かれそうだったし。

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