第56話  神獣ラルカ

 二年が過ぎた。

 エリサは、伝導師として各地に神殿を回り、母のアリシアが見張り役だった。そのことで不満を持ったことは無い。


 だが、この二年で五回も銀の森で若長との見合い席を設けられているのだ。その都度、遠方にいるとか、年が若いとか、巫女の修行に邁進したいと断って来た。

が、今は東方の銀の森の近くで、活動中だった。


 悶々とした気分で眠ると、決まって白い猫型神獣が夢の中に現れるようになった。


「何で、夢に干渉が出来るのよ!!」


《闇の神に授けてもらったの。転生特典だって、僕の仕事は、人間と天界の橋渡しなんだって》


「だからって!!」


《大丈夫だよ、君は彼と結婚しないもの》


 決まってラルカはそう言った。

 天界は、あらゆる時代に繋がっている……イグニス女神はそう言った。


《でも、彼の気持ちは本物だよ。一度くらい会ってあげれば?》


 かつての凶暴さは無くなっていた。


「そう言ってもねぇ……私はティランが苦手なのよ。あの女神みたいな顔で微笑まれてみなさい。思わず『はい』と答えてしまいそうで怖いの」


《光の一族はもと精霊王の血筋だもんね。美形が多いよ天界でも際立ってるよ。闇の神とは大違いだよ》


 闇の神の顔を知っているエリサは、自分からふった話題なのに、


「この話は止めましょう。ラルカは、なんで私の夢に現れる訳?」


 この発言に、ラルカは初めて反応した。いつもエリサの枕元で話しかけるだけだったが、急に、寝ているエリサのひざ元に行って、「ニャー」と鳴いた。


 空中から、メッセージカードを取り出した。


《実は、エル・ロイル家の方からの直接の頼みなんだ。断れなくて》


 六回目の見合いの案内状だった。


「ラルカ!!あんたロイル家の回し者なの!?」


《違うけど、の方が僕より、が高くて言う事を聞かなくちゃならないんだよ~~》


「ラルカ!!」


 エリサが声を出して飛び起きると、一枚のメッセージカードが枕元に添えられていた。



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風と光のフーガ/光の神に愛された精霊使い 月杜円香 @erisax

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