第47話  目覚めた若長

 エリサは、デュール谷へ帰ることなく直接西域の神殿、サントスへ行くことになった。


 餞別だと、祖父のアレクサスがどっさりドレスを買ってくれ、巫女の修行をさせるのに邪魔だとアリシアとケンカをしていた。


 アリシアの方はアリシアで、遠い西域勤務になるのが反対な実父、アンスニィが銀の森に押しかけて来て、三賢人に娘の西域行きの反対を求めた。


 そこで思いがけず、母方の祖父と出会ったエリサである。

 母を溺愛するあまり、学び舎に放り込んで、自分の思った男と、結婚させようと思ったが、その前にお前の父に拐われたと聞かされたが、レフからは、そんな話は聞いたことも無い。


「アリシア~~西域でもう一人子供を作って俺に送れ!!」


 別れ際に、怒鳴っていた。

 アリシアは、エリサにあの人の言う事は気しなくて良いからと言った。


 準備で慌ただしく日々は過ぎて行き、明日は出発と言う日になって、若長わかおさが目を覚ましたという知らせが入った。


 ティランは、エリサと出会った時ままで、心を閉ざしていたのだそうだ。


「エリサ」


 父のレフが、光の神殿の三賢人たるアレクサスの館で、エリサの部屋に入って来た。


「なに?父様」


若長わかおさがお前に会いたいそうだ」


「え……?」


 エリサの顔が歪む。


「本当のことは言わなくていい……」


 レフは、真面目な顔で言っていた。

 

 ♦



 おさの館__


「母上は見つかりましたか?」


 ベッドに座っていたティランの顔色は悪かった。

 周囲には、守役のジェド、父長ちちおさのミルドランがいた。

 誰も若長わかおさの答えに答えられない。


 一同は沈黙した。

 一緒に母のカタリナを捜すために旅をしたエリサが帰っているという事は、旅は終わっているという事だ。

 夢の中のエリサも言っていた。

 旅はとうに終わっていると……


 その中で口を開いたのは、エリサだった。


「奥方様は、北の人達のために今しばらく残るそうよ」


「北の地?」


「大山脈の向こう側!奥方様は、闇の神様に選ばれてしまったのよ。

 北の地方が少しでも豊かになる様にと、少しでも自分を知ってもらいたくて、協力をお願いされたそうよ……」


 エリサは一気に話した。

 真実を話す必要はない……父に言われていた。

 彼には、父長ちちおさや守役がいる。

 若長の心のケアは彼らの仕事だとレフは言った。


「あなたは誰と大山脈を越えたのですか?」


「ティランのフリをした同行者よ」


「僕のフリをした同行者って誰です?」


 エリサは、耳元で囁いた。


「光の神様」


 ティランは、もう一度倒れそうになった。



(完)



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