第33話  怪しげな行商人

 さすがに、神だと名乗るだけあって、風の奥方の使い方が天下一品である。

 あっという間に、西域の砂漠から、東国のデュール谷へ辿り着いてしまった。


「リカルド……知ってたわね?」


 <あの人には弱いんだよ>


 空中で移動中にエリサは、風の騎士に詰め寄っていた。


「何時。入れ替わってたのよ」


 <アリシアといっしょに現れた時だよ。若長は、父長ちちおさたちに銀の森に連れ戻されてるよ。…… 身体はね>


「どういうこと?」


 <風の奥方に、この旅の事を探らせてるよ>


「もう!!そういうことは得意な訳ね!!」


 苦笑いのリカルドである。


 デュール谷の結界をすんなり通り抜けるイリアスを見て、エリサは彼の力の差を見せつけられた。

 エリサには、壊すことは出来ても、通り抜けり事は不可能である。


 結界の外で止まっていたら、イリアスが気が付いて手を差し出してくれた。

 手を取ると、次の瞬間には、結界の中にいた。


「スゴ……」


 空中を風のマントで隠れながら、谷長たにおさの館へ行くとエリサの知らない客が来ていた。

 従妹のエイミアが、若い行商人と楽しそうに話している。


 顔をスカーフで覆い、良く顔は見えなかったが、彼には、こちらが視えたようだ。

 急にエイミアとの話を打ち切り、去って行った。

 イリアスは、直ぐに後を追おうとしたが、その前にエリサがエイミアの前に着地したのだ。


「何処から湧いてくるのよ!?エリサ」


「湧くってなによ!!それよりさっきの人は誰?」


「アヴィン・ディアルのこと?アヴィンは、ディナーレで、髪飾りを選んでくれた人よ」


「行商人にしては若くないかしら?」


「お父様のお仕事を手伝ってるらしいわ。アヴィンがどうかしたの?」


 エイミアは、青い大きな目をさらにパッチリさせて聞いて来た。


(どうしよう……)とエリサは思う。


 その時、エリサの頭の中にイリアスの声がした。


《その子の持っている髪飾りが手に入れば、カタリナの装飾品が全部そろうことになるな》


 その声を聞いて、ゴクリと唾を飲み込んだエリサは、エイミアにディナーレのお土産をしばらく貸して欲しいと伝えた。


「え~~アヴィンが選んでくれたものよ~今度、ダリに会いに行く時に、つけて行こうと思ってたのに~~」


 口を尖らせて拒否するエイミア。

 エリサは、上空を見上げる。


 すると、また声が聞こえてきた。


 その通りに言うとエイミアは、走って自分の部屋まで行って、蝶の髪飾りを持って来てくれたのである。


「中々、女心の分かる神様なのね?」


われはあの子には、ピンクのリボンの方が似合ってると思っただけだ」


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