第29話  光の神であるらしい……?

「限界だな…… そなたを騙すのは……」


「誰よ!?ティランの姿をして、風の奥方まで連れてるなんて」


 怪しさはいっぱいである。

 だが、高位の精霊の風の奥方を手懐けられるほどの魔法使いは、限られている。


 すると…… ティランの姿が変わった。正確には少年の彼が大人になったような姿で、繊細さが無くなり、神々しさが増したのだ。

 身長が30テール(cm)程も伸び、全身が銀色に輝いていた。


 エリサは、ただただ呆然とした。


 そして驚くことにブリジットが、彼の前に行くと古風なお辞儀をして挨拶を始めた。


『ブリタチノ、カミサマ、ゴアイサツ、モウシアゲマス』


「見事な挨拶だぞ。火竜の姫」


 ブリジットは、顔を赤らめて喜んでいた。

 訳の分からないのはエリサである。

 声まで低くなっていた。


 ティランから変化した銀色の人は、優しい目でエリサの事を見ていた。


「我の事が分からぬか?デュール谷の姫よ」


 エリサは頷いた。

(でも、声は聞いたことがあるわ)


「確かに、神剣の間でそなたに話しかけたな」


 その言葉にエリサはイラっとした。


「人の頭の中を勝手に覗かないでよ!変態なの?」


 彼は一瞬、自分の事を言われているとは思わなかった。

 それでボケっとしていたら、ブリジットが『カミサマノ、コトダヨ』と教えてくれたのだ。

 酷い言われようである。人間世界で長く生きてきたが、頬を抓られたことも変態扱いされたことは一度も無かった。


 イリアスは、途端に笑いが堪えきれなくなった。

 今は、非常時だと言うのに、この少女から、目が離せないではないか。


 エリサは、目の前の男が突然大笑いを始めたのでますます怒りが湧いてきた。


「もう!!帰るわ!!風の騎士、飛ばして」


 <無理だ、それより祖神に挨拶しろよ>


「祖神?何それ」


 エリサは、ピンとくるものがない。


「そなたは、神剣の間で我を抜いた当代のアフレオスのあるじでもあるのだ」


「神剣の間って、光の神殿の?ご神体が神剣で目の前にいるのが竜の神様で~~?私たちの祖神~~?」


 <エリサ様、我らの精霊族のもと王にして、聖なる光の神のイリアス・エル・ロイル様です。ご存じないですか?>


 堪えきれずに、風の奥方が教えてくれた。


「え?」

「え?」

「え~~!?」


 エリサは三度聞き返してしまった。

 そして慌てて泉の水で顔と手を洗ってイリアスの前に戻る時に盛大にコケてしまった。

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