第28話  闇の神、ディハルド

「ディハルド……」


 辺りが暗くなって、ゼナの花は一段と輝きを増した。中ほどの泉のほとりで、背中を大きく裂かれた傷のある美しい女の人が、一つ目の恐ろしい姿の怪物と話していた。


 エリサは怪物の姿にビックリして叫んでしまった。


「「「キャーー!!」」」


 やがて女の人は、銀色の光を怪物に渡すと消えてしまった。


「エリサ、ディハルドは見た目は恐ろしいですが、優しい神です。どうか、見た目で判断は止めて下さい」


「だって!!谷の火竜より怖い顔をしてるわ!」


 ティランは、ゼナの消えた辺りまで行く。


 そこには幻の一つ目のディハルド神がまだいた。


「静寂なる闇の神のディハルドよ。ゼナの力を我に返してくれぬか?

 そうして、魔族たちの守護をしてやるのだ。さすれば、後の歴史は少しは変わったモノになるやもしれぬ」


 ティランは、ディハルドに近付いて行った。

 言葉遣いがティランのものではない。


『イリアスか……ゼナの力はわれが受け取ったものぞ。そなたは、そなたの一族を守れば良いではないか。われはゼナと約束通りに人間の守護にまわろう。暗い夜道を旅する砂漠の守護神となろう』


 ディハルド神は、そういうと消えた。


 エリサは、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。


(イリアス……?誰の事)


 ブリジットが半べそをかいてエリサのもとへ帰って来た。


『勇者サマ~~』


「ブリジット、大丈夫?」


『うん、勇者サマ』


 エリサは、ぎこちなくブリジットを抱き上げたが、その間もティランから目を離していない。

 その様子にティランも気が付いたようだ。


「どうかしましたか?」


 シレッと話すティランに怒れたエリサは、彼の奇麗な顔の両頬を思い切りつねった。

 驚いたのはティランである。

 今まで生きてきた中で、誰にもされたことのない所業だ。

 長く生きてきたが…… 初めての……


「「あなたは、誰!?ティランではないのでしょう?」」


 エリサは、はっきりとした大きな声で言い切った。


 ティランは、「もう限界か?」とぼそりと言って銀色の光を放った。

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