第25話  勇者サマ!!

『勇者サマ~~!!』


 カラクリ箱のふたを開けたら、火を吹く可愛らしい女の子が出て来た。


 ♦


「からくり箱だ……」


<そう言えば以前、砂嵐の中のオアシスに、火竜の姫を眠らせましたわ>


 出て来たのは現代風のプラスチック製の軽い素材ではなく、木製のカラクリ箱だ。軽く500年前の代物だ。


(あっけらかんと風の奥方は言うけど、奥方は誰もここへ連れて来なかったのかしら……?)


「500年前といえば、暗黒時代も含まれてますから。精霊も神も活動が停止していた期間が入ってますよ」


 ティランが、エリサの心を読んだように言った。


『勇者サマ、オンナノ、コニナッタ、ノ?』


「私は、そんな者じゃないわよ。ただのエリサよ、あなたの名前は?」


『ブリハ、ブリジット、ナノ』


 ブリジットは、からくり箱の中から出てずっと、エリサのそばを離れない。


「どうする?ティラン……」


<あの当時は、時代が悪かったのですわ。少しずつ時期がズレていればあのような悲劇も起こらなかったですわ……>


「今更だろう…… あの者の魂は霧散し浄化された。沢山の人々のもとに宿った…… この娘にも、あの勇者の魂のかけらが宿っている…… そういう事だ」


 エリサはじっとティランを見つめてしまった。


「あの、ティラン…… また分からないこと言ってる」


「何でも無いです、火竜の姫はこのまま置いておけません。いっしょに連れて行きましょう」


 ティランは、声が元の高さになって、朗らかに笑った。


「だって!ブリジット。良かったわね」


『ブリ、ウレシイ!!』


「故郷のデュール谷には、火竜がいるわ。仲間もいるのよ」


 ブリジットは、キョトンとしていた。


『ブリ、ズット、勇者サマト、イッショ!!』


「だって、仲間といっしょの方が良くない?第一竜の身体には戻らないの?」


『ブリ、シラナイ、モン』


「その子は、卵から孵ってすぐに心臓を盗られて、人型にされたようです。本人が望まぬのに竜身に戻すのはどうでしょうか……」


「でも喋る度に火を吐かれるのも、ちょっと……」


 ティランは、フワ~っと浮き上がって、水の精霊と奥方とで砂の汚れを落としていた。


 エリサもそれを見て真似てみた。

 驚くほど、自分が綺麗になった。


「その子の世話は、あなたに任せます。火竜の精と契約してるなら、その子の吐く火なんて大したことが無いでしょう」


 ティランは、吞気に明るく言った。


「さてと火竜の姫、500年以上にも長きの眠りによく耐えてくれた。

 少し、そなたの記憶を覗きたい、少しだけだ」


 またティランは、声が低くなってブリジットの頭に手をかざした。


 その途端に泣きわめくブリジット。


「ウェ~ン、コワイヨ~、勇者サマ~」


 エリサは、砂漠に来る前のティランとは、別人のようにしか思えなかった。

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