第26話  ティランが怪しい

「そなたの生まれは、大山脈の北側のようだ」


 ブリジットの頭から手を離すと、ティランは言った。


『わ~~ン、わ~~ん!!』


「ティラン、これ以上人格が変わるなら、私帰るわよ」


「故郷のデュール谷の結界を壊して、ヴィスティンの王宮も破壊して、ロイル家の若長わかおさと逃げてるのに?今、銀の森に戻ってもまたあなたは逃げ出すでしょう?それだったら、僕の母上探しを手伝ってください」


「だったら、あなたは誰よ?ティランじゃないわよね?」


 エリサの怒った顔に、ティランは笑って言った。


「それは後ほど……」


 なんのコッチッャと泣いているブリジットを抱えて再び空に飛び上がる。そして気が付いた。

 ブリジットの着ている昔風のドレスが少しもすたれていないことに。


「過去のからくり箱は、今の物より魔法の力が強いんですよ。だから、500年もちずにいたのでしょう」


「それより、ブリジットの生まれが大山脈の北側って、どうして分かったの?」


 エリサは、ティランがブリジットを泣かせてまで、知りたがった情報が知りたくなった。


「火竜の姫の生い立ちをずっと遡ってみたのです」


 エリサは、首を傾げる。


(遡る?)


「大山脈の麓の山で暮らしていた竜たちの一族です。卵の時に山が噴火したのです。その時の恐怖が、卵ながら覚えてたのですね。

 火竜の姫は、運悪く一族とはぐれて、魔族に拾われたのでしょう。人間でなくて良かったです。竜の卵は近世までは、万病の薬で高値で取引されてましたから」


「魔族だったから、ブリジットは卵から孵ることが出来たの?」


「…… でしょうね~~ それで人型にしたら可愛かったので、心臓を取って人形のようにして巣に飾ってたみたいですよ」


「何よ~~それ!!」


「勇者に助けられて、心臓は取り戻したけど、時の冒険者たちに火竜の存在が知られて隠さねばならなくなった…… と?」


 ティランは、頭上の風の奥方に目をやり言った。

 奥方は黙って頷く。


「からくり箱は、一度開けた痕跡があるな。あの男不死となった後、ここへ来たのか……」


「「ティラン~~」」


 ティランが我に返ってエリサを見ると、彼女は真っ赤な顔をして自分へ疑いの目を向けていた。


(どうも、いつもと勝手が違う娘だ。いつも以上に気を付けなければ)


 ティランは、エリサから逃げるように、砂嵐のオアシスを後にした。

 エリサも、ブリジットを抱えて後から飛んで来た。


「言っとくけど、納得はしてないわ!あなたがティランとは! でも、他に呼びようがないからそう呼ぶわけど」


「……それで良いですよ」


 ティランは、高く高く飛んだ。

 ブリジットの竜の視力に期待したのだ。


『アッチニ、ゴコ、コッチニ、サンコ、オアシスアルネ。デモ……

 マッスグ、イッタトコロカラ、イイニオイガ、スル』


 ブリジットは泣き止んで、砂漠の南東の方向を指差した。

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